研究課題/領域番号 |
17K07628
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研究機関 | 松山短期大学 |
研究代表者 |
杉本 秀樹 松山短期大学, 商科, 教授(移行) (40112255)
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研究分担者 |
荒木 卓哉 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (10363326)
諸隈 正裕 香川大学, 農学部, 准教授 (50284352)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水稲 / 有機栽培 / 雑草対策 / 米ぬか / ナタネ油かす / クラゲチップ / マメ科緑肥 |
研究実績の概要 |
食の安全の確保や自然環境の保全に有効な有機農法への取り組みは,水稲栽培においても行われている.しかし,2016年度に有機農法で生産されたコメは全生産量の0.11% (農林水産省 2018) に過ぎない.これは収量が慣行栽培に比べて低いこと、とりわけ雑草対策が極めて困難なことによるもので、水稲有機栽培の普及には雑草対策が最も重要な課題としてあげられる。除草剤を用いない水稲栽培ではカブトエビやジャンボタニシの利用、アイガモ農法などが取り組まれてきたが、扱いが難しかったり、効果が不十分だったりと課題が残されている。また、再生紙を利用した移植栽培や直播栽培,機械除草と米ぬかを組み合わせた方法等が開発されているが、専用の田植機やマルチ敷設機を準備しなければならない。 以上のように、種々の雑草対策が試みられているが、効果やコストの関係から普及に至っていないのが現状である。水田においてマメ科緑肥のシロクローバをすき込んで有機質肥料のナタネ油かすと米ぬかを混合して施用すると雑草の発生を抑制できること、さらに水稲収量も増えることが、著者らのこれまでの研究で示唆されている。 そこで、2018年度は入手しやすく、安価で、雑草抑制能が高くかつ水稲の増収に寄与できる新たな有機質肥料の選択およびその利用法に取り組んだ。有機質肥料にはナタネ油かすと米ぬかに加え、クラゲチップ(クラゲを脱塩して乾燥した細片)そして海産生物堆肥を選び、施用法の違い、すなわち水田土壌にすき込んだ場合と田面に散布した場合、および上記有機質肥料を組み合わせた場合における雑草発生状況と水稲収量の違いについて調査した。さらに、シロクローバのすき込みと有機質肥料を組み合わせた場合についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究結果は以下のようにまとめられる。 1. 雑草抑制効果:海産生物堆肥以外は雑草抑制効果が高く、水田土壌にすき込んだ場合より田面に散布した場合の方がその効果は勝った。また、ナタネ油かすとクラゲチップは米ぬかと混合して田面に施用することでその効果はさらに高くなった。そのなかで、ナタネ油かすと米ぬかの組み合わせの方が効果は勝った。 2. 水稲収量:ナタネ油かすおよびクラゲチップは米ぬかと混合して田面に施用すると、水稲収量は慣行栽培(化学肥料施用+除草剤散布)のそれぞれ93%および89%であった。 3. まとめ:本実験結果より、ナタネ油粕、クラゲチップは米ぬかと組み合わせることで雑草抑制効果ならびに水稲収量が高まること、なかでもナタネ油かすと米ぬかを混合して田面に散布する方法が最も有効であった。シロクローバを田植え前に水田にすき込み、田植え後にナタネ油かすと米ぬかを混合して田面に散布することで雑草抑制効果ならびに水稲収量が格段に高まることも明らかになった。これは、これまでの研究結果を裏付けるものである。ナタネ油かすと米ぬかは入手しやすくかつ安価であり、マメ科緑肥シロクローバの利用は土壌の肥沃度向上にも有効である。以上より、上記方法を用いることで化学肥料ならびに除草剤に依存しない水稲有機栽培が可能なことが実証された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では,クラゲチップと米ぬかを混合して田面に施用することで、水稲は慣行栽培なみの収量が得られ、抑草効果も高まることも明らかになっている。収量性の向上は両者の成分含有率と肥料効果発現時期の違い、抑草効果の向上は両者がそれぞれ持つ成長抑制物質の違いによる相乗効果に起因した事が明らかにされている(杉本ら 2019)。 2019年度は 1. ナタネ油かすの成長抑制物質について:クラゲチップには成長抑制物質が含まれること、そして米ぬかにも成長抑制物質が含まれ、それはモミラクトンであることも明らかにされている。しかし、ナタネ油かすについては成長抑制物質の存在の有無は未だ不明である。そこで、まずナタネ油かすの成長抑制物質の存在の有無について確認し、その物質同定の端緒をつける。次に、雑草抑制にとって最も効果的なナタネ油かすと米ぬかの混合割合を明らかにする。 2. シロクローバの効果について:水稲移植の約2週間前にシロクローバを水田にすき込むと、それだけで雑草抑制効果ならびに水稲の増収効果がみられた。シロクローバ単独でも両効果が向上するメカニズムについて明らかにする。 3. 普及活動:2018年3月にBangkokで開催された国際学会でこれまでの研究成果の一部を発表した。これが契機となって2019年8月に台湾で開催されるアジア生産性機構(APO)の年次総会で水稲の有機栽培に関する講演を依頼された。APOはアジア太平洋地域における社会経済の発展に寄与するための諸活動を行っている国際機関で、現在20カ国が加盟している。ここでの講演は、アジア水田地帯における本研究成果の普及に資するものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品が予定額より安価に入荷したため。次年度の物品購入に使用する予定である。
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