本研究では、イネの温度感受性雄性不稔変異系統の解析を中心として、花粉形成の分子制御と温度感応システムを理解することを目指す。この変異系統の責任変異の同定を通して、どのような変異により温度感受性雄性不稔の形質が表出するのかを考察し、花粉の形成過程における温度による影響を推定する。 これまでの研究から、この温度感受性雄性不稔変異系統の責任変異の候補として、第7染色体のおよそ 150 kbの欠失領域がすでに検出されている。CRISPR/Cas9システムにおいて、2つのガイドRNAを同時に導入することにより、2カ所の両鎖切断の間の領域を欠失した変異体を作出し、それぞれの部分欠失がもとの変異系統と同様の表現型をもたらすか否かを調べた。その結果、約 150 kbの欠失領域を3分割したうちのひとつの領域、およそ 50 kbの範囲に責任変異があることが明らかとなった。さらにその内部領域に対して同様の解析を行い、約 10 kbまで候補領域を狭めた。この領域内に予測されている2つの遺伝子について、それぞれのコード領域にフレームシフト変異を導入することにより、遺伝子機能を破壊した。これらの結果を総合して、1つの遺伝子の欠損により温度感受性雄性不稔となることを証明できた。 この遺伝子は機能未知の新規遺伝子であるが、データベース検索により植物に広く保存されていることがわかった。この遺伝子の欠損変異体の解析から、この遺伝子の機能は植物の生育や常温での花粉形成には必須ではないが、高温条件下での花粉形成に必要であることが示された。今後は、この遺伝子の作物育種への利用を目指して、知的財産権を確保するとともに、花粉形成における機能と制御メカニズムの解析を進める。
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