研究課題
平成30年度の研究実施計画に基づいて以下の研究を行った。(1)リンゴにおける小胞子培養系の確立:‘千秋’および‘Starking Delicious’の花蕾を用いて小胞子培養を行った。その結果、小胞子からカルスの形成までは進んだが、植物体形成には至らなかった。当初困難であった、無菌条件の維持には成功し、カルス形成は可能になったが、カルスが一定程度以上に増殖せず胚様体の形成も確認できなかった。実験を効率的に進めるためには年間複数回の実験が必要と判断した。通常リンゴは開花時期が年に1回だが、数年前から育苗していた開花する接ぎ苗を12月にポットに移植し冷蔵室で貯蔵した。この実験材料の作出により次年度以降は任意の時期に人工気象機内で開花の誘導を行うことが可能な体制が確立できた。(2)遺伝的な背景が斉一な再現性を有する小胞子培養系の確立:開花・結実するリンゴの倍化半数体‘95P6’の葯培養および小胞子培養を行った。葯培養では、胚様体形成後のシュート形成が多品種より優れる傾向が認められたが、‘95P6’の樹勢が一般品種より弱く、胚様体形成効率は高くなかった。小胞子培養の結果は‘千秋’および‘Starking Delicious’と同様である。(3)小胞子培養系を用いたゲノム改変実験:小胞子培養系が確立しておらず、アグロバクテリウムの感染条件が探れなかった。小胞子培養系にアグロバクテリウムを感染させることは困難が予想されるので、パーティクルガンによる形質転換に方針を転換した。
3: やや遅れている
小胞子培養系の確立が困難である。今後、一層小胞子培養系の確立に力を注ぐ予定である。リンゴは圃場条件では年に1回の開花のみのため研究の進展に大きな支障がある。そこで、健全なリンゴ樹を接木で育成しポット植えし開花するまで養成した。このポット植え個体を長期間低温保存し、任意の時期に人工気象機内で開花に至らせる実験系を作出した。次年度以降は、この実験系を用いて、年に複数回の小胞子培養実験を行う。それにより、培養条件の設定をより効率的に進め、できるだけ早く小胞子培養系を確立する。一方で、以前のプロジェクトで作出したリンゴの倍化半数体が開花をはじめ、倍過半数体間の交配を行い、実生を獲得することには成功した。
ゲノム改変を行う上で、キメラを回避するために1細胞由来のシュート再分化系を確立することは実験系確立のための必須条件である。ゲノム改変用のベクター導入はアグロバクテリウム法でなくパーティクルガンによる一過的発現でも可能になりつつあるため、アグロバクテリウムによる形質転換操作は必ずしも必要ない。したがって小胞子培養等による1細胞由来のシュート再分化系の確立がより重要であため、今後は小胞子培養系の確立に力を注ぐ。また、開花・結実するリンゴの倍化半数体そのものが世界的に希少なため、この材料を有効活用するため、遺伝的背景が揃うリンゴのF1種子を獲得し、生理特性解明のための素材とすることも重要である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
The Horticulture Journal
巻: 86 ページ: 1-10
10.2503/hortj.MI-094