研究課題/領域番号 |
17K07646
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
五島 聖子 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (80745216)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ユーカリプトル / 芳香浴 / 認知症患者 / 認知機能 / 周辺症状 / 香りの認知 |
研究実績の概要 |
まず、前年度の研究結果をまとめた論文が国際学術雑誌に受理されたとともに、国際学会で発表した。研究においては、前年度の研究結果に基づき、ユーカリプトルの効果を認知症患者に対し実験を行った。被験者は、のぞみの杜の特別養護老人ホームの入居者のうち、本人あるいは家族から同意の得られた27名としたが、予備調査から本調査を実施する間に2 名の対象者が亡くなられたため、実験結果の分析に用いたサンプル人数は25 名となった。 予備実験を6/18~6/24、その結果を踏まえて10/12~10/18 に本実験を行った。実験の前に介護スタッフから対象者の認知症の日常生活自立度と要介護度、年齢、性別、平均起床時間を聴取し、両実験開始前と後にMMSE、DBD とCMAIの調査を対象者全員に行った。予備実験では、被験者の起床1 時間前から実験グループの居室で芳香浴を行い、芳香浴が終了してから午前中までの被験者の行動について、介護者に対してアンケートを行った。実験では、予備実験の起床1 時間前に加えて、就寝時間30 分前から1 時間の芳香浴を実施し、芳香浴の時間の長さは効果に影響があるかどうかを検討した。また、アンケートと共に、簡単な記憶力テストも行った。 この実験の結果、ユーカリプトルの匂いを感知しない認知症患者にも、認知機能と周辺症状の改善を見るという結果を得た。匂いの効果は、匂いに接する時間を増すことで顕著に見られただけでなく、健常者も認知しない程度の微香でも、コントロールにおいて効果が確認された。また、ユーカリプトルは、香りを認知しない高齢者であっても効果が得られることが分かったが、その効果に個人差があることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目的は、前年度の研究結果に基づいて、ユーカリプトルの効果を認知症のある高齢者に対して測ることである。そもそも嗅覚は加齢に伴い衰えるとされ、アルツハイマー病などの認知症やMCI 患者において嗅覚障害が認知機能障害よりも先に現れることも広く知られている。これまでの既存研究は香りの嗜好性と匂いの効果に注目しているものが多いが、本年度の実験は、嗅覚の衰えた末期の認知症患者を被験者とし、果たして香りの認知がない人に匂いの効果は得られないのかということを明らかにすること目的とした。実験の結果、対象者全員がユーカリプトルの香りを認知していなかったにも関わらず、MMSE、DBD スケール、CMAI 、アンケートの結果から、認知機能、周辺症状に対して改善の効果を優位に示したことがわかり、ユーカリプトルによる認知症の認知能力や行動能力の向上効果があると考えられた。香りの嗜好性によって得られる効果は変わってくると従来の既存研究では述べられてきたが、香りに対して好き嫌いを感じないレベルの微香において、香りの効果は得られると分かった。すなわち「被験者である認知症患者がユーカリプトルの香りを認知していなくても、その香りの効果を得ることができた」ということに加え、「嗅覚障害のある認知症患者だけでなく、健常者さえも認知できないレベルでのユーカリプトルの香りでも、効果が得られる」ということが明らかになった。特定された芳香の効果を認知症患者を対象に測る、という本研究当初の目的は計画通りに果たすことができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験により、ユーカリプトルの効果には個人差があることがわかった。そこで当初の3年目の研究計画は重度認知症患者に対する実験を計画していたが、来年度の研究では、更にサンプル数を増やした実験を行い、効果を検討するべきであると考える。また、本年度の実験で芳香時間を延長したことにより、周辺症状が改善から悪化に変化した被験者がいたことから、異なる濃度や使用時間で実験を重ねることにより、適切な濃度や芳香浴の時間が明らかにすることが必要であると考える。
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