本研究課題では、トレニアにおいて、花弁数が著しく多い花を着ける放射状完全八重系統を、半八重変異、多心皮変異、ベゴニア変異、向軸弁着色変異の集積によって育成する。さらに、この過程において花弁数の増加に重要な役割を果たす2つの現象、つまり、多心皮変異によって心皮が著しく増加する現象、ならびに、多心皮変異と八重変異を集積することにより花弁数が著しく増加する現象について、その分子機構を解明することを目的とする。 令和2年度までに、放射状完全八重系統を育成した。また、完全八重の発現に必要な半八重変異体と多心皮変異体については、おそらく変異の原因遺伝子からトランスポゾンTtf1が切り出されており、トランスポゾンディスプレイ法によって原因遺伝子を同定することができなかった。そこで、次世代シーケンサーを用いた染色体マッピング法で原因遺伝子の同定を試みた。また、多心皮変異体と八重変異体でサイトカイニン酸化酵素遺伝子TfCKX5の発現が高く、サイトカイニンシグナルが高まっていることが予測されたため、サイトカイニン生合成遺伝子の発現を解析した。 次世代シーケンサーによる解析は、リファレンスゲノムの塩基配列が本研究で用いた系統の塩基配列と予想以上に異なっていたため、変異の原因遺伝子を同定することはできなかった。一方で、若い花芽におけるサイトカイニン生合成酵素遺伝子の発現を解析した結果、イソペンテニル転移酵素(IPT)遺伝子ホモログ、ならびに、サイトカイニン活性化酵素(LOG)遺伝子ホモログのうちそれぞれひとつの発現が、正常型と比較して半八重変異体および多心皮変異体で高まっていた。これらの遺伝子のゲノムDNAの塩基配列に、正常型と「半八重」および「多心皮」の間で差は認められなかった。したがって、これらの遺伝子とは別の変異が、サイトカイニンの生合成系の調節を通じて花弁数を増加させると推察された。
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