研究課題/領域番号 |
17K07661
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
中島 育子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, 上級研究員 (80355362)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ブドウ / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
本研究では、温暖化により果皮の着色不良が問題となっている四倍体ブドウ「巨峰」で、ゲノム編集技術を用いて着色能を増強させることにより、着色の安定化を試みる。転写活性のあるMYB転写因子の数は着色に影響しており、四倍体である「巨峰」には着色制御に関連するMYB転写因子が4個あるうち2個は活性があり、活性のない2個にはプロモーター中にレトロトランスポゾンが存在することで発現が抑制されている。そこで、レトロトランスポゾンをゲノム編集技術で切り出すことで活性を取り戻し、転写活性のあるMYB転写因子の数を増やすことで着色を安定化させる。CRISPR/Cas9システムを導入するため「巨峰」のエンブリオジェニックカルス(EC)を誘導・増殖した。まず植物のカロテノイド合成に関わる遺伝子で変異が入ると植物細胞が白化するPDS遺伝子を標的とし、次に果皮の着色に関連するレトロトランスポゾン(Gret1)を標的とする。これまでにブドウ二倍体品種「ネオマスカット」ではPDS遺伝子への変異導入個体が得られ、「シャインマスカット」でGret1の欠失を狙ってGret1の5’および3’LTR領域に設計したCas9のguide#4を用いた場合、「シャインマスカット」でGret1の欠失の認められる再分化個体が複数認められた。「巨峰」においてもシークエンスして確認したところ、「シャインマスカット」のguide#4の配列を用いることが出来ると考えられる。令和元年度は、「巨峰」のECにPDS遺伝子を標的、あるいはGret1欠失を目標としたベクターを持つアグロバクテリウムを感染させ、形質転換候補カルスや不定胚を得ることを目標としたが、ECが不調であったため、ECへのパーティクルガン打ち込み条件を応用して、不定胚へGFPプラスミドおよびゲノム編集酵素の打ち込みを試みた。その結果、GFPの発現が少数ながら認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに誘導した「巨峰」のECにPDS遺伝子への変異導入、Gret1欠失を目的としたベクターを持つアグロバクテリウムを感染させたが、感染操作の際、遠心の強度が強すぎたことが一因と考えられ、これまで形質転換候補カルスや不定胚が得られなかった。その後、形質転換に用いるECを培養するための培養室の空調が故障し、修理に時間を要した。また、EC自体の状態も悪くなり、形質転換実験ができる状態にするために何度かの継代が必要となり時間を要した。これまでに形質転換ではなくパーティクルガンを用いてGFPプラスミドを「巨峰」ECへ打ち込んだところ、一過的なGFP蛍光スポットが多数認められた。令和元年度はECが不調であったため、ECでのパーティクルガン打ち込み条件を応用して、不定胚へGFPプラスミドとともにゲノム編集酵素の打ち込みを試みた。その結果、トランジェントなGFPの発現が少数ながら認められた。この系についても今後さらに条件検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
感染操作の際、遠心の強度を下げることで、PDS遺伝子を標的としたベクターを持つアグロバクテリウムの「巨峰」ECへの感染を再度行う。また、Gret1欠失を目的としたguide#4で設計したCRISPR/Cas9一体型ベクターを持つアグロバクテリウムについてもECへ再度感染させる。「巨峰」ではアグロバクテリウムの感染効率がもともと低いことも考えられるため、パーティクルガンを用いたEC等へのゲノム編集酵素の直接導入についても試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
形質転換に必要なECを培養するための培養室の空調が故障し、修理に時間を要した。また、EC自体の状態も悪くなり、形質転換実験ができる状態にするために何度かの継代が必要となり時間を要したため、変異検出等に関連する試薬などがあまりかからなかった。 今年度、再度アグロバクテリウムの感染を行うとともに、パーティクルガンを用いたEC等へのゲノム編集酵素の直接導入についても試みる。予算はこれらの実験および変異検出に役立てる計画である。
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