温暖化により四倍体ブドウ「巨峰」では果皮の着色不良が問題となっている。転写活性のあるMYB転写因子の数は着色に影響しており、「巨峰」ではMYB転写因子4個のうち2個は活性があり、活性のない2個にはプロモーター中にレトロトランスポゾン(Gret1)が存在することで発現が抑制されている。そこで、ゲノム編集技術でGret1を切り出すことで活性を取り戻し、転写活性のあるMYB転写因子数を増やし、着色の安定化を目指す。CRISPR/Cas9システムを導入するため「巨峰」のエンブリオジェニックカルス(EC)を誘導・増殖した。これまでに「シャインマスカット」でGret1の欠失を狙ってLTR領域に設計したguide配列の5種類の中から、Gret1の欠失の認められるguide配列を明らかにしている。「巨峰」のguide部分のシークエンスは「シャインマスカット」と同じであった。そのため、同じguideを用いてCRISPR/Cas9の一体型ベクターを持つアグロバクテリウムを「巨峰」のECに感染させた。その結果、形質転換候補不定胚が94個得られ、そこから植物体となったのは14個であった。成育のよかった12個体はPCRにより、全て形質転換体であることが確認できた。アグロバクテリウムは完全に除菌されていた。その12個体について、Gret1が欠失した際にsolo LTRのバンドが検出できるように設計したマルチプレックスPCR(常にバンドの出るコントロールはPDS遺伝子を用いた)によってGret1の欠失の確認を行ったが、Gret1の欠失は認められなかった。Gret1は約8.8kbと長いため、Gret1の欠失を狙うには「巨峰」の形質転換系をさらに効率化し、形質転換体をより多く獲得すること、およびさらなる切断効率の改良の必要性が示唆された。
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