本研究では、タバコにおけるサリチル酸 (SA) 合成経路とその制御機構を明らかにするため、以下の2つの小課題を実施した。 <1. ペルオキシソームのβ酸化系を介したSA合成経路の構成因子> 小課題1の目的は、これまでの我々の研究により同定されたSA合成経路の候補遺伝子 (CL、CHD、KAT、2OGD、HCT、HSR201、HSR203J等) が実際にSAの合成に関与するかどうかを明らかにすることである。2020年度は、前年度に引き続きVIGS (virus-induced gene silencing) によるベンサミアナタバコの候補遺伝子ホモログの発現抑制がSAの合成におよぼす影響を調べた。その結果、HSR201ホモログおよびHSR203Jホモログの抑制により病原体ストレスに応答したSAの蓄積が減少することが明らかになった。前年度までに既にSA合成への関与が明らかになっている、ペルオキシソームのβ酸化に関与すると考えられるCL、CHDおよびKATと同じく、HSR201はペルオキシソームに局在することが我々の先行研究により明らかになっている。そのため、HSR201はペルオキシソーム内でβ酸化と共役してSA合成に関与すると考えられた。
<2. CBP60型転写因子・NtCBP60によるSA合成の制御機構> 小課題2の目的は、NtCBP60がSA合成を活性化する機構を明らかにすることである。これまでに、NtCBP60がSA合成関連遺伝子の発現を制御することを証明するため、NtCBP60の組換えタンパク質がHSR203Jを初めとしたSA合成関連遺伝子のプロモーターに結合するか解析してきたが、結合を確認することはできなかった。そこで、ベンサミアナタバコのNtCBP60ホモログのVIGSによる抑制がSA合成関連遺伝子の発現におよぼす影響を調べた。その結果、2つのCBP60ホモログを同時に抑制すると、HSR203Jホモログを初めとしたSA合成関連遺伝子ホモログの発現量が低下することが明らかになった。
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