研究課題/領域番号 |
17K07678
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
林 長生 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 再雇用職員 (90391557)
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研究分担者 |
井上 晴彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (10435612)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | いもち病 / 圃場抵抗性 / 圃場抵抗性 / 抵抗性機作 / リグニン化 |
研究実績の概要 |
陸稲品種の「戦捷」に由来するいもち病抵抗性遺伝子pi21は、イネの葉いもち病において菌系特異性が無く安定した抵抗性を付与する。単離されたpi21は、特徴的なドメインは持たない機能未知のタンパク質であり、抵抗性pi21は罹病性Pi21の特定の二ヶ所の配列がin frameに欠失することによって生じていた。 Yeast two-hybrid法(Y2H)を用いて、pi21と相互作用する因子の単離を試みたところ、植物の栄養状態や糖の転流に重要な役割を果たすタンパク質リン酸化酵素であるSnRK1をpi21相互作用因子として同定した。pi21を持つイネにおいてSnRK1αあるいはSnRK1βの遺伝子発現を抑制すると、どちらの発現抑制系統でもpi21に依存したいもち病抵抗性が著しく低下した。このことから、上記二つの因子はpi21抵抗性基盤遺伝子として、重要な役割を果たすと考えられる。 植物におけるSnRK1の多数の機能の中から、病原菌への潜在的な防御応答を推測すると、(i) 糖代謝、(ii) 細胞壁合成、(iii) 栄養転流等への関与が考えられる。具体的には、pi21品種ではSnRK1の機能が賦活化し、維管束等において糖代謝や栄養転流を抑制することによるいもち病菌増殖の抑制、及び細胞壁強化によるいもち病菌の侵入阻害等を想定している。 本研究では、pi21またはPi21、および、相互作用因子の機能を比較解析することにより、抵抗性を獲得するに至った本質を明らかにする。さらにこれらの解析を通じて、菌系特異性が無く安定であるpi21抵抗性の背後にある分子基盤を解き明かすことを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
pi21およびその抵抗性に関わるSnRK1群の時空間的発現の変動を解析:pi21イネにいもち病を接種する際に観察される特徴的な針状型病斑は、pi21の抵抗性に関わる相互作用因子の遺伝子発現の組織局在性と関係があると考えられる。これを検証するために、pi21相互作用因子の遺伝子発現をレポーター遺伝子を用いることで可視化し、病斑の形成のメカニズムを解析する。現在、形質転換体のT1の種子は取れたが、解析に使うには十分量を確保できておらず、T2種子採取のための植物の育成を行なっている。 Y2H法によるpi21とSnRK1αとβの相互作用の栄養学的検証:ラジオアイソトープを用いていもち病菌への栄養の流れについては、植物用ポジトロンイメージング装置 (PETIS) を使って、本年度は窒素の転流を観察した。その結果、抵抗性のpi21系統の病斑の周りには、窒素の転流が少量観察された。一方、罹病性のPi21系統の病斑の周りには、窒素の転流を示唆する強いシグナルが観察された。これは、罹病型Pi21系統の病斑周りの病原菌には、窒素を取り込む機能が強く発現しており、いもち病菌は窒素を取り入れて病斑形成を促進していると予想された。 そこで、GFPによってラベルされたいもち病菌を用いて、Pi21系統とpi21系統に接種して病斑周辺にいもち病がどのように局在するのかを検証した。その結果、抵抗性のpi21系統では、いもち病菌が病斑の内部に集中して存在していた。一方で、罹病型のPi21系統では病斑内部にも存在していたが、病斑周辺の病斑を形成していない箇所にもGFPシグナルが観察された。これは、上記のいもち病菌への窒素の転流を促す、シグナルであると推定された。ただし、イネの特性である自家蛍光が多く観察されたので、自家蛍光とは異なる波長で観察できるmCherryなどにラベルを変えて実験する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
pi21およびその抵抗性に関わるSnRK1群の時空間的発現の変動を解析:pi21イネにいもち病菌を接種する際に観察される特徴的な針状型病斑は、pi21の抵抗性に関わるSnRK1群の遺伝子発現の組織局在性と関係があると考えられる。現在、SnRK1群のプロモーターGUS形質転換植物のT2の種子が揃ったので、いもち病接種による発現の組織局在性の解析を実施する。 Y2H法によるpi21とSnRK1αとβの相互作用の栄養学的検証:pi21とSnRK1αとβは、酵母内で相互作用するが、この相互作用に栄養状態が関与するか否かを検証する。具体的には、酵母の培地において、窒素源の濃度を振ることで、相互作用が変化するか否かを調べる。 また、感染15日後のpi21品種での病斑の組織観察を行ったが、細胞壁の肥厚化については判断できなかった。そこで、感染・病斑形成の初期段階(1~7日)における病斑横断切片を作成し、細胞壁の強化に必要な、リグニンの蓄積の有無をサフラニンによる染色で観察し、細胞壁の肥厚化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に結果報告を含む学会の参加費・旅費であったが、新型コロナウィルスの影響により全てキャンセルとなった。また、レポーター遺伝子であるGUS遺伝子の検出するX-glucを購入を先延ばししたために研究費の次年度への繰り越しを行なった。
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