研究課題
べと病は重要病害であり、古くから抵抗性遺伝子による抵抗性品種が利用されてきたが、新レースの出現と抵抗性打破のリスクを常に招いている。宿主植物と病原菌の関係においては、病原菌が標的とする、感染するために必要な宿主側の遺伝子(罹病性遺伝子)が存在し、罹病性遺伝子を欠損させた植物体には病原菌は感染することができない。罹病性遺伝子は、病原菌にとって宿主侵入前後における必須因子であることが予想されるため、その作物への応用は安定的で持続的な病害抵抗性に貢献することが期待される。本研究では、“細胞レベルでの宿主病原菌相互作用機構解析”および“免疫不全変異体を用いた順遺伝学的スクリーニング”を通して、べと病に対する新規の罹病性遺伝子を同定し、その機能解析を行うと同時に有用作物への応用を目指す。■細胞レベルでの宿主病原菌相互作用機構解析昨年度までに、べと病菌が感染している細胞(シロイヌナズナ)由来のmRNAsを濃縮したサンプルにおける、トランスクリプトーム解析を実施し、得られたべと病菌の推定標的遺伝子(罹病性遺伝子候補)が、実際にべと病菌が感染している細胞で特異的に発現が誘導されることを確認していた。今年度、罹病性遺伝子候補の欠損および過剰発現シロイヌナズナを作製した。■免疫不全変異体を用いた順遺伝学的スクリーニング昨年度までに、EMS処理により変異導入したM2 の免疫不全シロイヌナズナ変異体を用いて、べと病菌に対して抵抗性を示す変異体を選抜しており、その1ラインについて得られた抵抗性変異体の戻し交配(免疫不全変異体とのクロス)を行い、F2 世代の表現型を基にしてゲノムシークエンスを行い、原因遺伝子(罹病性遺伝子候補)を同定していた。今年度、新たにもう1ラインの原因遺伝子(罹病性遺伝子候補)の同定に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、“細胞レベルでの宿主病原菌相互作用機構解析”および“免疫不全変異体を用いた順遺伝学的スクリーニング”を通して、べと病に対する新規の罹病性遺伝子を同定し、その機能解析を行うと同時に有用作物への応用を目指している。上述の通り、両方のアプローチにより罹病性遺伝子候補が見つかってきており、すでにそれらの欠損および過剰発現シロイヌナズナの作製に着手しており、いくつかについてはすでに作製が完了している。また、特異的な細胞におけるトランスクリプトーム解析については、手法をまとめた形で論文の執筆を始めている。
(1) 得られた罹病性遺伝子候補の欠損および過剰発現シロイヌナズナを作製し、べと病菌に対する抵抗性の評価と共に、エリシターにより誘導される抵抗反応(活性酸素種生成、カロースの蓄積、防御関連遺伝子の発現など)の評価を行う。(2) 過剰発現シロイヌナズナを用いた免疫沈降・質量分析法により、罹病性遺伝子候補産物の宿主(シロイヌナズナ)および病原菌(べと病菌)における相互作用因子を同定し、その欠損変異株や過剰発現株についても(1)と同様の解析を行っていく。(3) 有用作物においてゲノム編集技術であるCRISPR 法を使用することで迅速に得られた罹病性遺伝子と相同性の高い遺伝子の変異体を作製し、作物における有用性の評価(べと病菌に対する抵抗性の評価)を行う。厚生労働省の発表により、ゲノム編集で開発した作物の流通が認められ、今夏にも販売可能になる見通しとなった。商品化に向けた有用作物における罹病性遺伝子の変異体作製は、当初TILLING 法を用いることを想定していたが、本アプローチにより作製する変異体がそのまま商品化に結びつけることが可能となり、本研究の応用への道筋が大きく開かれた。
効率的に研究を遂行するため実験補助を雇用していた。当初、2019年3月までの雇用予定であったが、2018年12月までの雇用となった関係で当該助成金が生じた。最終年にあたる本年度は、研究成果を論文発表する予定としており、当初の計上分と合わせて余裕を持って実施していく。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature Communications
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