研究課題/領域番号 |
17K07681
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
中尾 史郎 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10294307)
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研究分担者 |
兼子 伸吾 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (30635983)
塘 忠顕 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (80282250)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 捕食性 / アザミウマ / 休眠 / 捕食効率 / 生物農薬 / 安定同位体比分析 / 発育零点 / 有効積算温度定数 |
研究実績の概要 |
アカオビハナクダアザミウマは鹿児島県鹿屋市以南に、シナクダアザミウマは奄美大島以南に、アカメガシワクダアザミウマは奄美大島以北に分布することを認めた。また、未記載2種を含む日本産全Haplothrips属の種の分子系統樹を作成し、捕食性の高い種と植食性の種とが概ね異なるクラスターを形成すること、ならびにアカメガシワクダアザミウマとハナクダアザミウマの分類学的位置について再検討が必要であることを把握した。近縁種数種を簡易判別するためのプライマーを設計した。 シナクダアザミウマ成虫の害虫アザミウマに対する捕食効率(25℃)はアカメガシワクダアザミウマ成虫と同程度であるが、アカオビハナクダアザミウマ成虫の捕食効率はそれより劣った。シナクダアザミウマとアカオビハナクダアザミウマの生殖休眠性は低いことを確認したほか、有効積算温度定数と発育零点を算出・検討し、シナクダアザミウマが沖縄県の施設害虫アザミウマの防除素材として最有望であると考えた。 少数個体による安定同位比分析の技術を確立した。 カキクダアザミウマのゴールに同所する捕食者は2種である可能性を分子多型の解析で把握した。さらに、Liothrips属群では、ゴール形成性を持つカキクダとガジュマルクダアザミウマの遺伝的類縁性が高いこと、そして、ゴールを形成しないワサビクダアザミウマとオモトクダアザミウマの遺伝的類縁性が高いことを把握できた。なお、ゴール形成性のフウトウカズラクダアザミウマは日本産Liothrips属では祖先的であり、ゴール形成能力を喪失したフウトウカズラヤドリクダアザミウマは他の非ゴール形成性種(ワサビクダアザミウマやオモトクダアザミウマ )の共通祖先である可能性が示唆された。以上から、カキクダアザミウマのゴールに同居する捕食性未記載種群は、カキクダなどを含むLiothrips属群とは異なる系統的起源であると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄県の害虫アザミウマの天敵として最も有望な1種を絞り込むことができた。鹿児島県から沖縄県に至る捕食性Haplothrips属3種の分布状況を把握できた。予定していなかった未記載捕食者についての系統解析を進めることができた。沖縄県において、キク栽培地、およびイチゴ施設での放飼実験を遂行することができた。分子マーカー利用と安定同位体比分析の研究計画は予定通りに進捗している。 捕食効率の温度変化、および対象種の増殖率の詳細な把握は完了するに至らなかった。学会発表は予定通りであるが、論文公表が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで生理生態学的情報がほとんど得られていないヤマノイモハナクダアザミウマの害虫アザミウマに対する捕食性や発育特性を解明して、シナクダアザミウマやアカメガシワクダアザミウマと比較する。ヤマノイモハナクダアザミウマは本州から沖縄県にまで広域分布するため、その機能活用に資する生理生態学的情報が得られれば、より普遍的かつ好適な生物的防除素材として利用する契機となる点に期待し展開したい。シナクダアザミウマやアカメガシワクダアザミウマとその他のHaplothrips属捕食性種は自然界において同じ植物体上で発見される頻度が高くなかったので、当初想定していた生殖干渉や捕食を通じた相互関係を追究するよりも、ニッチを異にする要因を追究する視点にウエイトを移して、研究を進めていく。 カキクダアザミウマのゴールに生息する捕食者の適切な識別や記載を目指し、我が国の捕食性アザミウマ相の知見充実や生態情報の共有が推進できる素地を築きたい。 アカメガシワクダアザミウマの増殖率や休眠生態に関する研究成果の論文化に一層の努力をしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費支出の節約に留意した結果、未使用金額が得られた。翌年分は全体額が少額となり謝金やその他経費が不足することが見込まれるので、その充当利用を計画している。
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