研究課題/領域番号 |
17K07684
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研究機関 | 地方独立行政法人青森県産業技術センター |
研究代表者 |
石栗 陽一 地方独立行政法人青森県産業技術センター, 農林部門, 研究管理員 (80502963)
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研究分担者 |
吉永 直子 京都大学, 農学研究科, 助教 (40456819)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モモシンクイガ / リンゴ / 誘導性二次代謝物 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
モモシンクイガ幼虫が食入したリンゴ果実に誘導される化合物のうち、幼虫の死亡率が高い着果に特異的な化合物としてクロロゲン酸(CGA)及びp-クマロイルキナ酸(p-CoQA)を同定した。幼虫の発育阻害程度は個体によって異なり、食入初期に死亡するものから、数ヶ月を経て老熟幼虫が果実を脱出するものまで、ばらつきが大きい。そこで、CGA及びp-CoQAの動態と幼虫の発育阻害程度との関連性を調べた。幼虫食入前の果実では両化合物はいずれも少なかったが、幼虫が食入初期に死亡した果実では、幼虫に発育阻害が見られない果実に比較して、食入孔付近におけるCGAの誘導量が多かった。食入初期には死亡せず発育遅延した幼虫が内部に存在する果実では、食入孔付近のCGA及びp-CoQAの濃度は幼虫に発育阻害が見られない果実と差がないが、果実内部における両化合物の濃度が高かった。果実全体を1cm角に切り、発育阻害関連物質の分布を調べた結果、部位による濃度の偏りが見られた。果実内の分布が一様ではなく局在するために幼虫の摂取量に違いが生じ、発育阻害程度に個体間差をもたらしていることが考えられた。 モモシンクイガが食入したリンゴでは、食害部位に3-oxo-TAやpomaceic acidなどのトリテルペン類も誘導される。これらは幼虫死亡率が低い摘果でも誘導されるため、幼虫の発育阻害に関与しないと推定され、実際にトリテルペン類を含む画分を人工飼料に添加しても、発育に悪影響は認められなかった。同じく果実を食害するナシヒメシンクイに対しても活性は認められなかった。一方、リンゴを加害しないハスモンヨトウや、リンゴの葉を主体に加害するリンゴコカクモンハマキに対しては摂食阻害活性を示した。トリテルペン類にみられる活性の種間差は、リンゴをとりまく各種昆虫の食性とリンゴの防御反応に対する適応の一端を説明できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モモシンクイガによる被害果に誘導される化合物の同定、及び誘導された化合物の生理活性の評価が順調に進んでいる。また、標的化合物の果実内分布が明らかになり、リンゴ果実における誘導メカニズムの解明につながる成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
果実内で食害により誘導される化合物の果実断面におけるイメージングを試みる。浜松ホトニクスのイメージングマスの新技術ではイチゴ等果実断面の化合物分布を高解像度で追跡することが可能になっており、この技術が当該研究でも実用可能かを検討する。 また、モモシンクイガ幼虫体内各部位の抽出物中から、リンゴ果実における様々な二次代謝物を誘導するエリシターを探索する。鱗翅目幼虫で植物防御応答のエリシターとして知られるFACs(fatty acid amino acid conjugates)がモモシンクイガ幼虫の唾液からも検出されている。通常、活性が知られるグルタミン型FACs(N-linolenoyl-L-glutamine)に加えてグルタミン酸型FACs(N-linolenoyl-L-glutamic acid)も持っており、これら化合物をリンゴ幼果に処理して、誘導される二次代謝物質をLCMS分析することで生理活性を明らかにする。これら既知のエリシターがクロロゲン酸類やトリテルペン類の誘導に関与していなかった場合は、未知のエリシター探索を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
島津LCMS2010のターボポンプ2台とLCMS2020のロータリーポンプ、及び島津LCMS-IT-TOFの全ての真空系ポンプは当初の予定通りO/H交換したが、LCMS2010のロータリーポンプ及びLCMS2020のターボポンプの交換を31年度に延期したため、今年度中に繰越金額を当てて交換する。
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