研究課題/領域番号 |
17K07685
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
松本 由記子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (80414944)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | RNAi / ツマグロヨコバイ / 唾腺 / 吸汁 / 生存率 |
研究実績の概要 |
ツマグロヨコバイの約30種の唾腺遺伝子でparental RNAiを試みた。試行した遺伝子では、次世代幼虫の成育に負の影響は見られなかったが、孵化幼虫の数自体が減少する遺伝子が2種類見つかった。1種類はハウスキーピング遺伝子でもあったため、卵の発生自体が停止したと考えられた。 もう1種は種特異的かつ唾腺特異的な遺伝子 NcSP75 (Nephotettix cincticeps salivary protein, 75 kDa)であった。NcSP75遺伝子について詳しく解析を行った。Parental RNAiを行ったメスの産卵数が対照の10.9%に低下しており、孵化幼虫数の減少はこれによるものであった。3齢幼虫RNAiを行ったところ、4齢、5齢幼虫の期間が対照より約2倍長くなり、その間に大半が死亡した。オス成虫RNAiでは生存日数が約3分の1に短縮された。オス成虫を人工飼料で飼育した場合は対照と差がなかったためNcSP75とイネとの相互作用が示唆された。EPG(電気的吸汁行動解析)法から、NcSP75 RNAi個体では篩管吸汁の時間が対照の半分以下に短くなっていた。導管吸汁を含めたほかの行動時間には有意差がなく、また甘露(排泄物)の量自体には差がなかった。甘露に含まれる糖は篩管由来であるが、その含量は対照の9.8%に低下していた。NcSP75ノックダウンによって篩管吸汁が阻害されていることが示された。In situ ハイブリダイゼーションより、NcSP75遺伝子はヨコバイ唾腺のタイプIII細胞で発現していた。口針鞘の形態には変化が見られなかった。NcSP75タンパクは篩管吸汁を成立・持続させるエフェクターであることが示唆された。本研究をまとめて論文とし、投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初め、約30種類の遺伝子についてparental RNAiを行い(複数のdsRNAを同時にインジェクションしたものも含む)、次世代幼虫への影響を見た。重要な唾腺遺伝子の発現低下により、孵化幼虫の2齢になるまでの生存率が低下することを期待したものである。試行した遺伝子ではその現象が見られなかった。一方で孵化幼虫数自体が減るという現象が見られた。メス成虫の吸汁、栄養吸収に影響が出たためと考えられる。この手掛かりからNcSP75遺伝子が吸汁に必要なエフェクターであることが示唆された。NcSP75遺伝子ノックダウンの影響は、幼虫RNAiの実験で、より明らかに見えた。Parental RNAi以外にも、幼虫RNAiを併用することで、生存率と成育速度への影響を観察する。
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今後の研究の推進方策 |
ツマグロヨコバイ唾腺遺伝子について、吐出タンパクや分泌タンパクを中心にさらにdsRNAを作成する。幼虫RNAiでの成育速度や死亡率を観察することで重要な遺伝子をスクリーニングする。予備実験であるが、複数のdsRNAを同時にインジェクションすることで死亡率が上昇したケースがあった。このような手法も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
サーマルサイクラーが故障し、修理不可能となったため、29年度繰越分と30年度の予算を合わせて新規購入を計画している(約50万円)。
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