研究実績の概要 |
ツマグロヨコバイはイネを吸汁する害虫であるが、吸汁の際イネ側に自分の唾液を注入する。イネからの吸汁を可能にする成分がこの唾液の中に含まれていると考えられるが、その成分や機能はほとんどわかっていない。ツマグロヨコバイの唾腺トランスクリプトームや吐出タンパクプロテオーム解析より唾腺で発現している遺伝子をデータ化した。このうち約70種類の遺伝子について幼虫RNAiを行い、生存率や発育速度への影響が出るものをスクリーニングした。唾腺で高発現のCa結合タンパクやタンパク質分解酵素等、なんらかの作用をしていると予想される遺伝子も多く含まれていたが、NcSP75(機能不明)とNcLac5の2種のみがその遺伝子抑制によって生存率や発育速度に悪影響をもたらした(唾腺遺伝子中には生存に必須と考えられる遺伝子も存在したがそれらは除く)。 ツマグロヨコバイにはMulticupper oxidase (MCO) family 遺伝子がNcLac1S, 1G, 2-5の少なくとも6種類存在することを明らかにした。NcLac1G は低レベルながら精巣で比較的多く発現、NcLac2は表皮ラッカーゼ、NcLac4はマルピーギ特異的に発現しており、一方NcLac1S, 3, 5が唾腺特異的(または優位)に発現していた。NcLac3は口針鞘のラッカーゼであるがNcLac1S, 5は機能不明であった。幼虫RNAiによる発現抑制を行うとNcLac2は表皮の硬化が阻害され脱皮前後に死亡した。NcLac5は脱皮後やや遅れて死亡した。ほかは生存率に影響しなかった。成虫にNcLac5 RNAiを行った場合は死亡率や産卵数に影響はなかったことからNcLac5は脱皮(ないし羽化)後に必須の機能を持つが吸汁にはあまり関与しないと考えられる。ツマグロヨコバイのMCO family 遺伝子について論文にまとめた。
|