研究課題/領域番号 |
17K07689
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
安部 洋 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任研究員 (90360479)
|
研究分担者 |
下田 武志 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター, 上級研究員 (20370512)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 植物防御 / 害虫食害 / アザミウマ / ハモグリバエ |
研究実績の概要 |
アザミウマやハモグリバエは農薬抵抗性を高度に発達させた難防除害虫であり、世界的な大問題となっている。本課題実施者はこれまでにモデル植物を用いて、これらの虫害抵抗性に関わる植物防御機構の解析を行い、植物ホルモンであるジャスモン酸(JA)が制御する植物防御の中心的な役割を明らかにしてきた。その中では、JAが関わる防御機構を欠損した変異体においてはアザミウマが劇的に繁殖することなども報告しており、寿命、産卵数、次世代の個体数などが、植物防御機構の作用点となっていることも解明している。このように害虫に対する植物防御について、多くのことが明らかになってきている。ところでアザミウマやハモグリバエは新葉を加害することはほとんどなく、多くの場合、古い葉を中心に加害する食害パターンを示す。広く知られる経験的事実であり、植物防御との関連も予想されるが、その原因は不明のままである。 これまでに課題実施者は、シロイヌナズナにおいて、JAが関わる防御機構を欠損させると、本来、加害の少ない新葉がアザミウマから加害されるようになることを見いだした。これは、植物防御がなければ、害虫は新葉を加害できること意味している。そこで、変異系統の探索などを行い、これまでに食害パターンに変化が生じる複数の系統を取得している。そして、そのような系統を用いることにより、食害パターンに影響を及ぼしうる植物代謝成分候補を見いだすことに成功した。そこで、これら植物代謝成分候補のアザミウマやハモグリバエへの影響を直接、評価するバイオアッセイ系を構築し、現在、その評価を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
農薬抵抗性を高度に発達させた難防除害虫であるアザミウマやハモグリバエによる被害が世界的な大問題となっている。本課題実施者はこれまでにシロイヌナズナを用いて、アザミウマやハモグリバエに対する虫害抵抗性に関わる植物防御機構の解析を行ってきた。解析の進んでいるチョウ目害虫の場合と同様に、これらの害虫に対する植物防御応答においては、植物ホルモンであるジャスモン酸(JA)が中心的な役割を明らかにしてきた。しかも、これらの害虫に対しては、上記の防御応答がより虫害抵抗性に緊密に関わっていることを見いだしてきた。つまり、JAが関わる防御機構を欠損した変異体ではアザミウマが劇的に繁殖することなども報告しており、寿命、産卵数、次世代の個体数などが、植物防御機構の作用点となっていることを解明した。このように害虫に対する植物防御について、多くのことが明らかになってきている。ところでアザミウマやハモグリバエは新葉を加害することはほとんどなく、多くの場合、古い葉を中心に加害する食害パターンを示す。これは同じ植物体であっても、よく加害される葉が存在することを示しており、このメカニズムを明らかにすることができれば、害虫防除技術にもつながると考えた。そこで、本研究では、上記の食害パターンを規定している植物側因子を同定すると共に、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。これまで既に、異なる食害パターンを示す複数のシロイヌナズナ変異株や野生系統を見いだすと共に、食害パターンに関わる可能性が見込まれる複数の植物代謝成分も明らかにしている。これら成分の内生量を解析すると新葉に多く含まれ、古い葉ではその内生量は低かった。そこで、これら植物代謝成分候補のアザミウマやハモグリバエへの影響を直接、評価するバイオアッセイ系を構築し、現在、その評価を行っている。以上に様に概ね順調に課題を進めているところである。
|
今後の研究の推進方策 |
近年、殺虫剤抵抗性を備えた害虫種の出現が顕在化してきており深刻な問題となっている。特に、高度な殺虫剤抵抗性を発達させているアザミウマやハモグリバエは難防除害虫の代表格であり、新たな防除手段の開発が求められている。課題実施者は、以前の研究成果により、両害虫種に対する植物防御応答においては、植物ホルモンであるジャスモン酸(JA)が中心的な役割をしており、JA防御応答が虫害抵抗性に深く関わっていることを見いだしてきた。そこで、本課題では、これらの害虫種に対する植物の防御応答や虫害抵抗性に着目した解析を進め、その成果を新たな害虫防除技術につなげることを目指している。アザミウマやハモグリバエは新葉を加害することはほとんどなく、多くの場合、古い葉を中心に加害する食害パターンを示す。これは同じ植物体であっても、よく加害される葉が存在することを示しており、このメカニズムを明らかにすることができれば、画期的な害虫防除技術にもつながると考えた。 これまでに、異なる食害パターンを示す複数のシロイヌナズナ系統を見いだすと共に、食害パターンに関わると見込まれる複数の植物代謝成分も明らかにしている。これら成分の内生量を解析すると新葉に多く含まれ、古い葉ではその内生量は低かった。また、標的植物代謝成分量を改変した形質転換植物の作出も進め、予備的ではあるが、食害パターンに変化が生じることが見いだされた。そこで、課題最終年に向けて、これら植物代謝成分候補のアザミウマやハモグリバエへの影響を直接、評価するバイオアッセイ系を構築し、現在、その詳細な評価を進めている。更には、トランスクリプトーム解析データを分析し、本課題の目標である植物の選択的防御機構について、遺伝子発現レベル、植物代謝レベルにおいて、そのメカニズムの概要を明らかにすると共に、新たな害虫防除技術につながる研究シーズとして更に発展させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本課題を効率的に進めるにあたり、2018年度は当初の計画を変更し、食害パターンへの影響が推定できる植物代謝成分の内生量を改変した遺伝子組換え植物の作出とその予備的な解析、および、アザミウマやハモグリバエへの直接的な影響を評価できるバイオアッセイ系の構築などに注力した。また、オミックス解析なども実施したが、植物の選択的防御メカニズムの概要を理解するためには、更なる多面的視点からオミックス解析が必要であり、2018年度から2019年度への次年度使用額を設けることとした。
|