本研究は,水稲の硫黄欠乏対策に不可欠な「水田土壌の硫黄肥沃度評価法」の開発を目標とし,土壌の可給態硫黄の実態評価,土壌診断による硫黄肥沃度評価法(還元の進行と難溶性金属硫化物の生成を考慮する)の確立,土壌理化学性に基づいた水田土壌における硫黄肥沃度ダイナミクスの制御機構を明らかにすることを目的とする。 供試土壌を増やして水稲の硫黄欠乏の実態(潜在的なものも含む)を把握するため,本年は可給態硫黄の水準から水稲の硫黄欠乏が懸念される岩手県内陸南部の6箇所から採取した水田土壌を新たに供試土壌に加え,ポット栽培試験で水稲の石膏施与への応答を確認した。本年を含め過去3年間の17供試土壌による栽培試験の結果は,水稲の石膏施与への応答を「土壌に含まれる可給態硫黄の多寡および可溶性亜鉛や銅等との硫化物形成による不溶化の量的関係により説明できる」とした申請時の作業仮説を強く支持するものであった。 水田土壌の硫黄肥沃度の広域評価に関しては,岩手県(n=257)と広島県(n=60)の農地の可給態硫黄から硫黄欠乏の発生が懸念される水田が特殊ではない可能性,岩手県の67定点調査試料を用いた可給態硫黄の昭和50年代と平成20年代の比較および広島県の19定点調査試料の可給態硫黄の平成20年代の変化から農地の可給態硫黄レベルが長期的減少傾向にあることを報告したが,本年は試験的に農業用水の一部を採取して含有硫酸イオン濃度を測定し,用水の硫酸イオン濃度が高い水系では土壌の可給態硫黄が低水準でも現地での水稲の硫黄資材への応答が認められなくなる事例があることを明らかにすることができた。 過去3年間の取り組みで可溶性亜鉛や銅の人工的添加による硫黄欠乏の誘発も確認できたことも含め,水田土壌の硫黄肥沃度評価法として「可給態硫黄と難溶性硫化物形成に関わる可溶性金属の量的関係」を用いる方法を提案したい。
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