研究課題/領域番号 |
17K07696
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 優 京都大学, 農学研究科, 准教授 (60281101)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ホウ素 / 細胞壁 / 細胞死 / ストレス応答 / 欠乏障害 |
研究実績の概要 |
ホウ素は植物の微量必須元素である。ホウ素を含まない培地にシロイヌナズナを移植すると1時間以内に根端伸長領域で細胞死が発生する。ホウ素は細胞壁でペクチンを架橋してゲル化させ、細胞壁構造を安定化させる役割を担う。したがってこの迅速な細胞死は細胞壁の構造異常が原因で発生すると推定されるが、具体的なメカニズムは不明である。そこでホウ素欠除処理に対するシロイヌナズナの応答の詳細な解析を進めている。前年度までの検討で、ホウ素欠除処理による細胞死と病原菌感染時にみられるプログラム細胞死(PCD)の間では、いずれも活性酸素分子種(ROS)および一酸化窒素の蓄積を伴うこと、新規タンパク質の合成が必要であること等の共通点が見出される。しかし30年度に行った検討では、ホウ素欠除に伴う細胞死においてはTUNEL法で検出されるDNA断片化は観察されなかった。またPCDでは液胞に局在するcaspase-1様タンパク質VPEが必須の役割を果たしており、vpe欠失変異株ではPCDは生じない。しかしホウ素欠除による根端細胞の細胞死は、vpe欠失変異株でも野生型株に比べ軽減されなかった。これらの結果から、ホウ素欠除に伴う根端細胞の急速な細胞死は病原菌感染時のPCDとは異なる機構で進行すると推定した。 ホウ素欠乏で特異的に誘導される遺伝子の探索については、トマトおよびソルガムにおいて、ホウ素欠乏とカルシウム欠乏で共通の遺伝子が誘導されることを前年度までに見出していた。30年度は更にセロリを材料として検討を行った結果、同様に両元素の欠乏で類似した遺伝子発現変化が誘導されることが示された。複数の植物種で同様の結果が得られたことは、両元素の欠乏が細胞にもたらすインパクトが共通であることを示唆し、ホウ素欠乏障害の発生機作解明に資する知見が得られたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主目的であるホウ素欠乏による障害発生メカニズムの解明については、当初の予想に反する結果ではあるが、急速な細胞死は病原菌感染時のPCDとは異なることを明らかにし、細胞壁強度の測定についても原子間力顕微鏡を用いた実験系がほぼ確立されたことから、最終年度終了時までに一定の結果を得られる見込みである。このためおおむね計画通りに進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
30年度までの研究により、ホウ素欠除処理に伴うシロイヌナズナ根の細胞死は、病原菌感染に伴う典型的なPCDではないものの、その誘導にはROSの蓄積が不可欠であることが確認された。したがって、ホウ素欠除による細胞死誘導機構の解明とは、ホウ素欠除時にROSがなぜ・どのように急速に生成蓄積するか理解することと同義と考えるに至った。そこで今後は、ROSを生成する分子装置の同定を目的として、ペルオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼの欠失変異株における細胞死について検討を進める。またROS生成をもたらす直接の刺激は細胞壁の強度低下に伴う細胞膜の局所的変形であるとの仮説を検証する。細胞壁の強度変化を定量的に評価するため、現在原子間力顕微鏡を用いて細胞壁強度の測定を進めている。 ホウ素欠乏特異的に誘導される遺伝子の探索については、カルシウム欠乏誘導遺伝子との重複が多く容易ではないことが改めて確認された。そこで最終年度においては、ホウ素欠乏特異的遺伝子を新規に探索するのではなく、カルシウム欠乏との共通性が具体的にどの程度であるか明確にすることに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ホウ素欠乏応答のトランスクリプトーム解析を計画していたが、研究を通じてカルシウム欠乏応答との重複が明らかとなり、新規なトランスクリプトーム解析は行わず、別解析に注力することとしたため未使用額が生じた。当該未使用額については、2019年度に実施する原子間力顕微鏡を用いた細胞壁の力学的強度測定他の解析に使用する。
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