研究課題/領域番号 |
17K07698
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山田 直隆 九州大学, 農学研究院, 助教 (20304769)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | サリチル酸 / 気孔開閉 / 硫化水素 |
研究実績の概要 |
サリチル酸(SA)は気孔閉鎖を引き起こし、孔辺細胞内に活性酸素(ROS)あるいは一酸化窒素(NO)を発生させることが明らかであったが、詳細な作用メカニズムは未解明であった。一方、アブシジン酸による気孔閉鎖では、硫化水素の発生がNOを生成誘導するシグナル伝達経路が提唱されていることから、SAの気孔閉鎖における硫化水素のシグナル伝達物質としての可能性の検証を試みた。 まず、SAのソラマメ表皮切片の気孔開口への影響を調べ、1~100μのSAが、明期条件下の気孔を処理1時間後から有意に閉鎖することを確認した。次に、硫化水素の消去剤ヒポタウリンのSAによる気孔閉鎖への影響を検討し、SA10μM処理時に100μMのヒポタウリンを添加すると気孔閉鎖は完全に打ち消されることを見出した。さらに、ソラマメ孔辺細胞内の硫化水素の発生を、蛍光プローブ(HSip-1 DA)を用いて検出を試みたが、細胞内の正確な硫化水素を検出するには至らなかった。これは、植物細胞内へのHSip-1 DAの浸透性の低さが一つの原因であると考えられるので、観察条件を検討し再度、孔辺細胞内の硫化水素の正確な定量を行う必要がある。 一方、SAによる気孔閉鎖は、NO合成酵素阻害剤L-NAMEや,NO 消去剤 PTIO、カタラーゼやスーパーオキシドアニオンのスカベンジャーTiron処理により、完全に打ち消された。また、NOと過酸化水素を蛍光プローブにてモニターし、孔辺細胞内のNOと過酸化水素量はSA処理により明らかに増加することを確認した。また、SAにより発生したNOと過酸化水素はヒポタウリンを同時添加するとほとんど検出しなかった。以上の結果、SA処理により孔辺細胞内で硫化水素が発生し、発生した硫化水素がNO、さらにROSの生成を誘導しこれらが気孔閉鎖の二次メッセンジャーとして機能していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
植物の孔辺細胞内の硫化水素の検出法は未だ確立されていなく、まず、近年開発された硫化水素検出用蛍光プローブ(SulfoBiotics- HSip-1 DA)を用いて試みた。しかし、詳細な観察条件を検討できななかったために、硫化水素の定量な検出が出来ず、SAによる硫化水素の発生誘導を直接的に証明するには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、サリチル酸を処理した孔辺細胞内の硫化水素の検出法の確立を行う。具体的には、まず、HSip-1 DA蛍光試薬の観察条件の検討を行う。孔辺細胞にてHSip-1 DAを用いた蛍光観察法が上手く行かない場合には、モノブロモビマン法にて、LC-MSを用いて硫化水素の検出を行う。 さらに、既に、サリチル酸処理により孔辺細胞内に硫化水素が発生し、それが一酸化窒素や過酸化水素などを誘導することを明らかとしているので、今後、①サリチル酸処理により硫化水素の生合成酵素であるL-Cysteine desulfhydrase(DES1)遺伝子が、発現誘導されているのかを検討すると共に、DES1欠損シロイヌナズナでの、サリチル酸処理による気孔閉鎖活性、硫化水素、一酸化窒素と活性酸素種の発生を検討し、DES1がサリチル酸シグナル伝達の構成因子であること明らかにする。 また一方で、サリチル酸の気孔閉鎖誘導で、硫化水素、一酸化窒素および活性酸素種の発生時に孔辺細胞内で合成されるシグナル伝達物質8-SHcGMPが発生されるのかを明らかにする。
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