研究課題
絶えず変動する窒素栄養環境において、植物がその生命活動を安定的に維持するためには、外環境と体内の窒素栄養状態に応じて個体の窒素栄養恒常性を保つことが極めて重要である。しかし植物がどのように窒素栄養恒常性の乱れを感知・応答・正常化するのかについて、その分子メカニズムの理解は進んでいない。本研究では、①GARP型転写因子群AtNIGT1sを介した窒素恒常性維持の分子メカニズム解明と②窒素恒常性を支える窒素情報伝達ネットワーク解明の二つの観点から研究を進めている。本年度は①の研究に重点をおき、GARP型転写因子群AtNIGT1sの機能解析を中心に行った。AtNIGT1s変異体・過剰発現体の表現型解析やAtNIGT1sのダイレクトターゲットのゲノムワイドな解析を行った。その結果、AtNIGT1sは直接ターゲット遺伝子に結合し、窒素充足時に窒素欠乏応答の抑制、硝酸補填時に硝酸誘導のフィードバック抑制を担う因子であることを明らかにした。AtNIGT1sによる制御は、窒素栄養環境の変化に応じて窒素栄養の同化・リサイクル(窒素栄養恒常性)を最適化するメカニズムであると思われる。またAtNIGT1sは窒素栄養環境の変化に応じて、リン欠乏応答の制御も行うことも見出しており、植物にとって最も重要な栄養素であるリンと窒素のバランス制御にも関わることが示唆された。これらの結果を“GARP型転写因子群AtNIGT1sによる窒素欠乏応答制御メカニズム”として論文発表した(Kiba et al. 2018)。
2: おおむね順調に進展している
問題なく進捗している。
本研究には①AtNIGT1sを介した窒素恒常性維持の分子メカニズム解明と②窒素恒常性を支える窒素情報伝達ネットワーク解明の二つの柱がある。①はすでに論文発表を完了した。今後は②の研究を以下のステップで推進する予定である。1.窒素欠乏応答のレポーターライン(pNRT2.4:GUS)に薬剤により変異を導入した変異体ライブラリーをスクリーニングし、窒素恒常性維持に関わる新規遺伝子を同定する。2.窒素欠乏応答のレポーターライン(pNRT2.4:GFP)を用いたケミカルスクリーニングにより、窒素恒常性維持に影響を与える化合物を探索する。化合物のターゲットを同定することにより、窒素恒常性維持に関わる因子を同定する。3.スクリーニングで得られた変異体、既知の窒素のセンシング、情報伝達、情報統御、転写などに関わる因子の変異体や過剰発現体について、窒素栄養恒常性異常が見られるかを調べる。窒素栄養条件、組織、画分別に窒素含量を調べる。 4.異常が検出された変異体について、それらの原因因子の分子機能を考慮した上で、多重変異体や形質転換体等を作製することにより遺伝学的相互作用を検証する。またAtNIGT1sを介した系との相互作用も調べる。 5.情報を集約し、窒素栄養恒常性維持に関わる情報伝達系とそれらのネットワークを明らかにするために必要な実験を適宜行う。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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