研究課題
絶えず変動する環境下で植物がその生命活動を安定的に維持するためには、外環境と体内の窒素栄養状態に応じて個体の窒素栄養恒常性を保つことが極めて重要である。しかし植物がどのように窒素栄養恒常性の乱れを感知・応答・正常化するのかについて、その分子メカニズムの理解は進んでいない。本研究では、①GARP型転写因子群NIGT1による窒素恒常性維持の分子メカニズム解明と②窒素恒常性を支える窒素情報伝達ネットワーク解明の二つの観点から研究を進めた。①nigt1多重変異体は窒素含量が高いのに対し、NIGT1過剰発現体は窒素含量が低い。この表現型がどの画分の窒素含量の変化に起因するのかを詳細に調べた結果、根でも地上部でも、約9割は液胞の硝酸イオン含量の変化で説明できることを明らかにした。硝酸イオン含量の変化は、NIGT1の標的遺伝子である高親和性硝酸イオン輸送体遺伝子(NRT2)の発現変化に起因すると考えられたため、nigt1とnrt2変異体を組み合わせた多重変異体を作製・解析した。その結果NIGT1は、NRT2の発現制御を通して窒素恒常性を維持することを強く示唆する結果を得た。②既知の窒素応答関連因子の変異体を入手し、それらが窒素恒常性異常を示すかどうかを解析した。その過程で、リン欠乏応答のマスターレギュレーターPHR1の機能欠損変異体が窒素恒常性異常を示すことを見出した。詳細な解析の結果、PHR1はNIGT1の発現を直接制御することにより窒素恒常性維持に関わることを明らかにした。またNIGT1はSPX因子を介してリン欠乏応答制御にも関わることを明らかにした(Ueda et al. 2020)。NIGT1は窒素/リン栄養状態に応じた窒素恒常性維持の重要因子であるだけでなく、窒素応答とリン応答のバランス制御を司るハブ因子として、窒素/リン情報伝達ネットワーク中に位置づけられることがわかった。
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