研究課題/領域番号 |
17K07708
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
矢野 成和 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (50411228)
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研究分担者 |
今野 博行 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (50325247)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | α-1,3-グルカナーゼ / 転移反応 / ニゲロオリゴ糖 |
研究実績の概要 |
Bacillus circulans KA-304由来α-1,3-グルカナーゼAgl-KAを用いた転移反応の最適条件を調べるために、ニゲロオリゴ糖(2-4糖の混合物)とAgl-KAの凍結乾燥物を恒温恒湿条件下で反応を行った。Agl-KAはマルチドメイン構造を有しており、DS1ドメイン、CB6ドメイン、DS2ドメイン、機能未知ドメインと触媒ドメインから構成されている。Agl-KAの転移反応を評価するために、触媒ドメインのみからなる変異酵素Agl-KAΔDCD-UCDを調製して転移反応をおこなった。また、DS1ドメイン、CB6ドメインとDS2ドメインはα-1,3-グルカンの結合に関与している。これら結合ドメイン群とGFPの融合酵素DS1CB6DS2-GFPに関しても転移反応を行った。 反応器内の温度を30℃、湿度を65%に設定した場合、Agl-KAは4糖の加水分解が進行し、2糖を主として3糖と4糖が確認できた。一方、Agl-KAΔDCD-UCDは、加水分解が進行して、2糖とグルコースが蓄積した。湿度を65-80%と上昇させた結果、Agl-KAにおいて70-80%で転移反応が起こった。次いで、結合ドメイン群からなるDS1CB6DS2-GFPを用いて実験を行ったが、転移反応は確認できなかった。 Agl-KAを用いて転移反応を行なう場合にかなりの量の酵素を必要とするので、酵素の高生産法を検討した。Agl-KAから機能未知ドメイン(UCD)を欠失させることで、酵素の性質を変化させることなく、大腸菌での生成量を増加させることに成功した。また。培養条件を最適化することで、培地あたりの生成量を7倍増加させた。 Agl-KAの反応機構を解明するために、触媒ドメインからなる変異酵素Agl-KAΔDCD-UCDを用いて結晶条件を検討した。得られた結晶のX線結晶解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
α-1,3-グルカナーゼAgl-KAと基質ニゲロオリゴ糖の混合物を凍結乾燥させ、吸湿させることで転移反応が進行する。この条件を調べるために、恒温恒湿器を用いて湿度条件変化させて実験を行った。反応時間は4から7日と長時間に渡って反応を行う必要があったが、各種湿度条件を検討して、加水分解が進行しやすい湿度と転移反応が起きる湿度条件について明らかにすることができた。また、触媒ドメインのみからなる変異酵素Agl-KAΔDCD-UCDと基質結合ドメイン群とGFPの融合酵素DS1CB6DS2-GFPに関しても、転移反応を評価することができた。また、酵素の添加量やドナーとアクセプター量に関しても検討することができ、30年度から研究を開始する添加剤や保護剤についての検討についても移行できる状態にある。 Agl-KAの転移反応解析には、かなりの量の酵素を一度に使用する。酵素調製量が研究遂行に大きく関わってくるが、Agl-KAから機能未知ドメインを欠失させるだけで、大腸菌を用いた場合の生成量が増加することを見出し、さらに培養条件を検討することで生成量を初期から7倍まで増やせた。 Agl-KAの転移反応を解析する上で、反応機構を明らかにすることは不可欠である。したがって、結晶構造解析を行なうための結晶化条件を検討していたが、29年度中にX線結晶解析を行なうことができた。本来の予定では30-31年度での達成を考えていたが、初年度で結果を得ることができた。現在、完全な結晶構造の解明に向けて実験を進めており、30年度中には結晶構造を明らかにすることができると考えている。 以上のように、転移反応解析につては順調に進行しており、結晶構造解析に関しては当初計画よりも進展している。今後、遅れているB. circulans KA-304以外のα-1,3-グルカナーゼに関しても研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
α-1,3-グルカナーゼAgl-KAと基質ニゲロオリゴ糖の混合物を凍結乾燥させ、吸湿させることで転移反応が起きることを湿度条件を検討することで明らかにすることができた。しかし反応時間を4-7日と長期間行っていたので、詳細な反応条件を検討するには至っていない。引き続き、転移条件がしやすい条件をしらべ、また、長鎖のオリゴ糖が生成する条件の解明も進める。 30年度以降は、転移反応を促進させる添加剤のスクリーニングや凍結乾燥の際の保護剤に関する検討を開始する。本研究では比較的実験を行いやすいwater mimicな化合物(エチレングリコールなど)を添加した実験から開始する。いくつかの酵素で転移反応と加水分解反応はpHによって影響をうけることがわかっている。本研究では、セミドライ条件下で実験を行っているためpH条件の検討は難しいが、酵素と基質を凍結乾燥する前に緩衝液pHを変化させて影響を評価する。 30年度以降の研究項目の中で、Agl-KAの結晶構造解析は達成に時間がかかると予想していたが、当初予定よりも順調に進展している。30年度中に完全な結晶構造を明らかにし、基質をはめ込んだ状態での結晶構造の解析も行なう。基質結合部位が決まれば、部位特異的変異導入により反応に必須なアミノ酸残基の決定を行なう。 29年度では、Agl-KA以外のα-1,3-グルカナーゼについても転移反応を確認する予定であった。Paenibacillus glycanilyticus FH-11由来酵素Agl-FH1とAgl-FH2については順調に研究が進んでいるが、Schizosaccharomyces pombe由来α-1,3-グルカナーゼの発現系構築に関する検討がやや遅れている。大腸菌以外の発現系も試し、早急に酵素を調製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を開始した当初は、α-1,3-グルカナーゼAgl-KAの酵素大量調製が必要であると考えていたが、欠失変異酵素の作製に成功し、それが大腸菌異種発現系での大量調製が可能になったために、酵素調製にかかる費用を抑えることができた。また、反応基質となるニゲロオリゴ糖は酵素加水分解法を用いて調製する必要があるが、調製手順を改善することで収率が数倍に増えたことから試薬類の購入費用を抑えることができた。以上のことから、次年度使用額が生じた。 次年度では、研究の進行がやや遅れているAgl-KA以外の酵素の作製を早急に行う必要があるので、研究費を充てる。現在、大腸菌異種発現系を用いて酵素を生産しているが酵母やBacillus系の異種発現系を用いることで、酵素の作製を目指す。また、結晶構造解析が順調に進めば、反応機構解明に向けた研究を開始することができるので、それに必要な試薬や消耗品の購入する。特に、基質の誘導体化作製は、研究の進展に影響するので、早期に検討を始める。
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