有用形質を安定保持できる高機能実用酵母の効率的育種法の開発

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17K07715
• 研究機関: 山梨大学
• 研究代表者: 中川 洋史 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (30362081)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 酵母 / 過酸化水素 / 変異株 / マルチストレス耐性 / 変異遺伝子 / セルフクローニング / 次世代シーケンス技術

研究実績の概要

本研究は、遺伝子操作技術を全く使用すること無く、有用形質を安定保持できる高機能実用酵母株を効率的に育種する方法を開発することを目的としている。本年度は、大別して下記の3件の研究成果を挙げた。
１．実用酵母株のモデルとして遺伝学的解析の容易な実験室酵母株を使用して、変異処理を行っていない実験室酵母株の細胞から、本研究室で開発した致死的濃度過酸化水素法により平成30年度に取得した過酸化水素、高ショ糖濃度、および高エタノール濃度に対してのストレス耐性変異を有するマルチストレス耐性変異株1株から、新規なマルチストレス耐性変異遺伝子の同定に成功した。さらに、実験室酵母株において野生型遺伝子を本変異遺伝子で置換した株は、過酸化水素、高ショ糖濃度、高エタノール濃度、冷凍、乾燥、高温など、多様なストレスに耐性を示すことを明らかにした。
２．当研究室において実験室酵母株で明らかにした新規なマルチストレス耐性変異遺伝子を用いて、実用パン酵母株のヘテロ置換株をセルフクローニングにより構築することに成功した。また、構築したヘテロ置換株が野生型株に比べストレス耐性を有していることを明らかにした。
３．実用パン酵母株から致死的濃度過酸化水素法により取得されたマルチストレス耐性変異株2株について、次世代シーケンスによる全ゲノム解析を行い、当研究室において実験室酵母株で明らかにしたマルチストレス耐性に関与する遺伝子に変異が生じていることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究室で開発した致死的濃度過酸化水素法により、変異処理を行っていない実験室酵母株の細胞から取得したマルチストレス耐性変異株のうち新たに1株について、原因変異遺伝子として、新規なマルチストレス耐性変異遺伝子の同定に成功した。また、実用パン酵母株において、当研究室で明らかにした新規なマルチストレス耐性変異をセルフクローニングにより導入したヘテロ置換株の構築に成功し、得られたヘテロ置換株がストレス耐性を有することを明らかにした。さらに、実用パン酵母株から致死的濃度過酸化水素法により取得されたマルチストレス耐性変異株2株について、当研究室において実験室酵母株で明らかにしたマルチストレス耐性に関与する遺伝子に変異が生じていることを明らかにした。以上の成果により、有用形質を安定保持できる高機能実用酵母の効率的育種法の開発に必要な、実用酵母から致死的濃度過酸化水素法等により取得されるマルチストレス耐性変異株の原因変異遺伝子を同定する際に役立つ重要な知見を得ることができたと考えられるため。

今後の研究の推進方策

当研究室において実験室酵母株で明らかにした新規なマルチストレス耐性変異遺伝子を用いて、実用パン酵母株のホモ置換株を構築し、有用形質を安定保持できる高機能実用酵母株であるか否かを調べる。また、実用酵母株から致死的濃度過酸化水素法等により新たにマルチストレス耐性変異株を取得し、次世代シーケンスによる全ゲノム解析を行い、変異遺伝子の解析を引き続き行う。その後、得られた知見を用いて、有用形質を安定保持できる高機能実用酵母の効率的育種法の開発を行う。

次年度使用額が生じた理由

令和2年度は、新型コロナウイルスの影響により実験を充分に実施できない期間があったことや、発表を予定していた学会の年次大会が新型コロナウイルスの影響により中止になったこと等に伴って未使用額が発生した。次年度の使用計画としては、令和2年度中に充分に実施できなかった当研究室で見出した変異遺伝子による遺伝子置換株の構築や、実用パン酵母株からのマルチストレス耐性変異株の取得と変異遺伝子の解析等のための経費に未使用額を使用し、翌年度分として請求した助成金については当初の計画通りに使用する計画である。