研究課題/領域番号 |
17K07720
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
本田 孝祐 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90403162)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒドロキシメチル化酵素 / ホルムアルデヒド / メチレンTHF / セリン / 好熱菌 / スレオニン / スレオニンアルドラーゼ |
研究実績の概要 |
本課題では、好熱菌由来glycine hydroxymethyltransferase(GHMT)を対象に、同酵素が触媒するグリシンのヒドロキシメチル化反応におけるドナー分子である5,10-methylenetetrahydrofolate (methylene-THF)に変わり、ホルムアルデヒドをヒドロキシメチル基ドナーとして利用可能な酵素を探索し、これを用いたグリシン、ホルムアルデヒドからのセリン生産に取り組んでいる。前年度までに2種類の好熱性酵素(Thermoplasma acidophilumおよびThermus thermophilus由来酵素)において、微弱ながらもホルムアルデヒドをドナーとしたグリシンからのセリン合成活性を見出すに至っている。本年度は、これらの酵素の精製標品を用いて、種々の基質を用いた際の活性評価を行った。T. thermophilus由来酵素では予想どおり、本来のヒドロキシメチル基ドナーであるmethylene-THFを用いた際に特に高いセリン合成活性値が認められた。これに対し、T. acidophilum由来酵素では、methylene-THF、ホルムアルデヒドのいずれをドナーとした場合でも同程度の低い活性しか認められなかった。同様の傾向は、逆反応であるセリンからグリシンへの開裂反応においても認められ、このことからT. acidophilum由来酵素はセリン、グリシン間の変換を担うGHMTの本来の役割とは異なる機能を有することが示唆された。そこで本酵素について、GHMT反応のアナログ反応であるthreonine aldolase(TA)活性の有無を検証したところ、GHMT活性を上回る活性が検出された。以上のことよりT. acidophilum由来酵素は、生体内においてGHMTではなくTAとして機能するものである可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T. thermophilusおよびT. acidophilum由来GHMT(以下それぞれTtGHMT、TaGHMTとする)を様々な濃度のmethylene-THF、ホルムアルデヒドの存在下でアッセイした。この結果、methylene-THFおよびホルムアルデヒドをドナーとした反応において、TtGHMTのkcat/Kmは、それぞれ3.9、4.0×10-3 s-1 mM-1と求められ、同酵素が本来のヒドロキシメチル基ドナーであるmethylene-THFの存在下で特に良好な活性を有することが示された。一方、TaGHMTのkcat/Kmは、0.11 s-1 mM-1(methylene-THF存在下)、8.3×10-3 s-1 mM-1(ホルムアルデヒド存在下)と求められ、本酵素はホルムアルデヒドはもとよりmethylene-THF存在下でも微弱な活性しか有さないことが示された。さらに逆反応であるセリンからグリシンへの開裂反応のモニターしたところ、TaGHMTはTHFの有無に関わらず有意な活性を示すことはなかった。以上より、TaGHMTはセリン/グリシン間の変換とは異なる別の機能を果たす酵素である可能性が示唆された。そこで我々は、多くのGHMTがセリン/グリシン間の変換のみならず、スレオニン/グリシン間の分解・縮合活性、すなわちthreonine aldolase (TA)活性を有するとの知見に基づき、TaGHMTのTA活性を測定した。スレオニンを基質としたグリシンの生成反応を指標にアッセイを行ったところ、セリンでは認められなかった有意な活性(kcat/Km = 0.11 s-1 mM-1)が検出された。これらの結果は、TaGHMTが生理的条件下において、セリンではなくスレオニン代謝に関わる酵素である可能性を示唆するものである。
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今後の研究の推進方策 |
以上のとおり、本年度の取り組みによりTaGHMTがTA活性を含むユニークな反応特異性を有することが示された。一般にTAは広い基質特異性を有し、本来の基質であるスレオニン/グリシン以外の多様な化合物間のアルドール縮合/開裂を触媒可能であるため、C-C結合形成のための有用生体触媒としても注目されている。そこで今後は、本研究の当初の目的である好熱性GHMTによるセリン合成に加え、TaGHMTのTA活性にも焦点を当てた研究を進める。T. acidophilumのゲノム上には、本年度までに解析を進めたTaGHMTに加え、別のアイソザイム(以下、TaGHMT2とする)がコードされている。TaGHMT2を大腸菌内で発現さえ、得られた組換え酵素を用いて同酵素の基質特異性に注目した特性評価を行う。以上の取り組みにより、生体内におけるTaGHMT、TaGHMT2の「役割分担」を明らかにするとともに、これらの酵素のC-C結合形成のための生体触媒ツールとしての利用可能性を探る。 一方、当初の研究目的であるGHMTのセリン合成への応用については、T. thermophilusを用いた検討を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
取得した酵素の一部において、研究開始当初に想定されなかったユニークな反応特異性を見出すことができた。そこで、2018年度は研究計画を一部変更し、上記の発見に焦点を当てた検討を実施した。このため、次年度使用額が発生した。生じた次年度使用額は、上記の取り組みとともに、本来の研究目的であるセリン合成試験を並行して実施することに活用する。
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