本課題では、グリシンからセリンへのヒドロキシメチル化を触媒する酵素であるグリシンヒドロキシメチル転移酵素(GHMT)を研究対象とした。前年度までにThermoplasma acidophilum由来のGHMT(TaGHMT)が、本来のヒドロキシメチル基供与体であるメチレン-THFのほか、ホルムアルデヒドを供与体としたグリシンのヒドロキシメチル化活性を示すことを見出した。しかしTaGHMTの活性は、メチレン-THF、ホルムアルデヒドのいずれを供与体とした場合でも極めて微弱であった。こうした結果より、TaGHMTは、GHMT反応のアナログ反応であるグリシン、アセトアルデヒド間のアルドール縮合を触媒する酵素、すなわちスレオニンアルドラーゼ(TA)として機能するという仮説を立てた。当該年度は本仮説の検証に向け、TaGHMTの基質特異性を精査した。 TaGHMTのTA活性はL-スレオニンからグリシンへのアルドール開裂反応をモニターすることで評価した。THFの存在/非存在下でアッセイを行ったところ、本酵素の活性にTHFは不要であり、むしろ阻害的に働くことが示された。またL-スレオニンのほか、L-allo-スレオニンにも同等の活性を示したが、D-スレオニン、D-allo-スレオニンでは活性を検出することはできなかった。TaGHMTが示すこうした基質特異性は、既知のTAの多くと共通するものであった。以上とは別に、T. acidophilumのゲノム情報を再解析したところ、既知のGHMTと高い相同性を示すものとして、TaGHMTとは別の酵素遺伝子(Ta1509)が見出された。今後、Ta1509の酵素化学的特性を解析することによって、T. acidophilumにおけるセリン、スレオニン代謝の詳細が明らかにできるものと期待される。
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