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2017 年度 実施状況報告書

基質特異性の「ゆるい」酢酸菌キノプロテイン脱水素酵素による新しい酸化的物質変換系

研究課題

研究課題/領域番号 17K07722
研究機関山口大学

研究代表者

藥師 寿治  山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (30324388)

研究分担者 片岡 尚也  山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (50713509)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード酢酸菌 / 発酵 / 応用微生物 / 酵素 / バイオテクノロジー
研究実績の概要

酢酸菌は,他の微生物にはあまり見られない酸化的物質変換能を持ち,古くから酢酸発酵やビタミンC生産におけるソルボース発酵などに用いられてきた。これらは,細胞質膜の外側に存在する,ピロロキノリンキノン(PQQ)を補欠分子族とするキノプロテイン,フラビン(FAD)を補欠分子族とするフラボプロテイン,モリブドプテリン(MCD)を補欠分子族とするモリブドプロテイン脱水素酵素による酸化反応である。ゲノム解析の進展に伴って,基質が明らかでない脱水素酵素候補遺伝子が多く報告されている。加えて最近,キノプロテイン脱水素酵素の基質特異性が比較的厳しくなく,寛容な(ここでは「ゆるい」と表現)ことがわかってきた。すなわち,基質未知の「オーファン」キノプロテイン脱水素酵素だけでなく,これまでに知られている酵素についても,一つ一つ発現系を作りその基質特性を調べることによって,「ゆるい」基質特異性を活用する新しい酸化反応系を見つけることができる可能性がある。この目的のために,可能な限り脱水素酵素を持たない酢酸菌変異株を構築する。私たちは,耐熱性を示すGluconobacter frateurii CHM43株を,有望な物質生産株と位置づけており,この菌株を基に多重遺伝子欠損株を構築する。ここで構築する変異株を宿主とすることで,発現させるキノプロテインの活性を特異的に検出する。さらに,その反応産物の構造を決定することによって,当該酵素による反応機構を考察する。最終的には,新しい酸化反応を用いる効率の良い酸化的物質変換系を構築する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

耐熱性Gluconobacter frateurii CHM43株の,キノプロテイン・グリセロール脱水素酵素(GLDH)複合体をコードするsldBA遺伝子を破壊した変異株を用いて,GLDHの基質特異性を再検討した。その結果,GLDHがL-リボースを基質とすることを見いだした。また,反応産物の構造を解析することでそれがL-リボン酸であることを明らかにした。sldBA遺伝子に加えて,キノプロテイン・アルコール脱水素酵素(ADH)の脱水素酵素サブユニットとチトクロムサブユニットをコードするadhAB遺伝子を破壊した二重破壊株を宿主として,広宿主域ベクターを用いてsldBA遺伝子の過剰発現を行った。このGLDH高発現株からGLDHを精製し,精製酵素を用いた物質酸化を行った。
多重遺伝子欠損株の構築は,現在,sldBA遺伝子とadhAB遺伝子に加えて,フラボプロテイン・グルコン酸脱水素酵素(GADH)複合体をコードするgndFGH遺伝子の3遺伝子について完成した。ADHに関して詳細な解析を行うために,3つのサブユニットの内,チトクロムサブユニット遺伝子だけを破壊した株を構築した。ADHの小サブユニット遺伝子の破壊プラスミドを構築し,破壊株の構築を試みたが,現在までに完成には至らなかった。同様に,キノプロテイン・グルコース脱水素酵素も破壊用プラスミドの構築は完成したものの,破壊株の取得には至らなかった。以上のように,特定の酵素に関する機能解析は,技術的な面も含めてある程度成果を得ることができたが,多重遺伝子欠損株の構築については難航しているところもある。理由としては技術的な問題を考えている。今後の展開も含めて,「概ね順調」と評価した。

今後の研究の推進方策

大きな問題として感じているのは,当初の想定以上に破壊株の作製に難航している点である。これは,本研究課題の全般に関わる問題で,速やかに解決する必要があると感じている。技術的なことではあるが,本菌への遺伝子導入法には電気穿孔法と呼ばれる人工的な手法を用いている。この方法自身はこれまでに系統的に検討したことは無く,他のバクテリアで用いられた例を参考にした方法にすぎない。すなわち,一つ目の検討課題として,系統的な遺伝子導入法の最適化を計画している。また,第二の検討課題として以下を考えている。
この研究では,遺伝子の供給源として大腸菌を用いてDNAの増幅を行っている。大腸菌で増幅されたDNAには,大腸菌の目印(メチル化)が入っており,Gluconobacterのそれとは区別される可能性がある。よって,Gluconobacter細胞内では大腸菌由来のDNAは異分子と見なされ,分解のターゲットとなることが懸念される。この分解が,遺伝子導入の妨げとなっていると考えている。これを回避するために,GluconobacterのDNAメチル化酵素を発現する大腸菌内で遺伝子破壊用プラスミドを増幅させることを計画している。これにより,分解を逃れたDNAがGluconobacterに効率よく導入されることを期待している。
最後に,特定のキノプロテイン脱水素酵素の研究も計画しており,GDHとADHについて,基質特異性を中心とした機能解析を進める。

次年度使用額が生じた理由

当該年度に予算を使用しなかった理由は,(1)破壊株の構築が難航したため,部分的に研究計画が遅延し,当初購入を計画していた物品を購入しなかった,(2)上記の理由により,当初計画していた謝金を使用しなかった,この2つである。次年度には当該年度に進まなかった破壊株の構築とそれらを用いた解析を進めるため,(1)と(2)で使用しなかった予算を使用し,研究を進める計画である。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] カセサート大学/チュラロンコン大学/ラジャマンガラ工科大学イサン校(タイ)

    • 国名
      タイ
    • 外国機関名
      カセサート大学/チュラロンコン大学/ラジャマンガラ工科大学イサン校
  • [国際共同研究] ユーリッヒ研究所(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      ユーリッヒ研究所
  • [国際共同研究] ラオス国立大学(ラオス)

    • 国名
      ラオス
    • 外国機関名
      ラオス国立大学
  • [国際共同研究] カントー大学(ベトナム)

    • 国名
      ベトナム
    • 外国機関名
      カントー大学
  • [雑誌論文] Aldopentoses as new substrates for the membrane-bound, pyrroloquinoline quinone-dependent glycerol (polyol) dehydrogenase of Gluconobacter sp.2018

    • 著者名/発表者名
      Yakushi T, Terada Y, Ozaki S, Kataoka N, Akakabe Y, Adachi O, Matsutani M, Matsushita K
    • 雑誌名

      Appl Microbiol Biotechnol

      巻: 102 ページ: 3159-3171

    • DOI

      10.1007/s00253-018-8848-1

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Improved heterologous expression of the membrane-bound quinoprotein quinate dehydrogenase from Gluconobacter oxydans2018

    • 著者名/発表者名
      Yakushi T, Komatsu K, Matsutani M, Kataoka N, Vangnai AS, Toyama H, Adachi O, Matsushita K
    • 雑誌名

      Protein Expr Purif

      巻: 145 ページ: 100-107

    • DOI

      10.1016/j.pep.2018.01.007

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Role of a membrane-bound aldehyde dehydrogenase complex AldFGH in acetic acid fermentation with Acetobacter pasteurianus SKU11082018

    • 著者名/発表者名
      Yakushi T, Fukunari S, Kodama T, Matsutani M, Nina S, Kataoka N, Theeragool G, Matsushita K
    • 雑誌名

      Appl Microbiol Biotechnol

      巻: 印刷中 ページ: 印刷中

    • DOI

      10.1007/s00253-018-8940-6

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] A single-nucleotide insertion in a drug transporter gene induces a thermotolerant phenotype of Gluconobacter frateurii by increasing the NADPH/NADP+ ratio via metabolic change2018

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto N, Hattori H, Matsutani M, Matayoshi C, Toyama H, Kataoka N, Yakushi T, Matsushita K
    • 雑誌名

      Appl Environ Microbiol

      巻: - ページ: AEM.00354-18

    • DOI

      10.1128/AEM.00354-18

    • 査読あり
  • [学会発表] Gluconobacter属酢酸菌から精製したPQQ依存型グリセロール脱水素酵素を用いたL-リボースの酸化2018

    • 著者名/発表者名
      寺田 優花,尾崎 聖士朗,片岡 尚也,足立 収生,赤壁 善彦,藥師 寿治,松下 一信
    • 学会等名
      日本農芸化学会中四国支部
  • [学会発表] 酢酸菌の膜結合型アルデヒド脱水素酵素の分子種と発現:酢酸発酵との関連2018

    • 著者名/発表者名
      福成 聖也,松谷 峰之介,薬師 寿治,片岡 尚也,ガンジャナ ティーラグール,松下 一信
    • 学会等名
      日本農芸化学会
  • [学会発表] Gluconacetobacter 属酢酸菌の膜結合型ソルボソン脱水素酵素の解析2017

    • 著者名/発表者名
      高橋 亮太, 松谷 峰之介, 片岡 尚也, 藥師 寿治, 松下 一信
    • 学会等名
      日本生物工学会
  • [学会発表] 酢酸菌膜結合型ヘテロ三量体ソルビトール脱水素酵素の分子構築:小サブユニットの役割2017

    • 著者名/発表者名
      藥師 寿治,Soemphol Wichai,Phong Xuan Huynh,片岡 尚也,外山 博英,松下 一信
    • 学会等名
      日本生化学会
  • [備考] 山口大学農学部応用微生物学研究室

    • URL

      http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~oubi/

  • [備考] 酢酸菌研究会

    • URL

      http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~jaab/

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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