保湿機能を持つ脂質は化粧品や化成品用途に利用されている。本研究において、需要が拡大し今後供給不足が懸念されるスクワレンの発酵生産系確立と新たなファルネセン生産プロセスの開発を目指した。ここでは、深海ザメや海洋生物に共生する微生物群とそれぞれの海洋生物油脂との比較から生物種ごとに変化する脂質組成との相関を調べるとともに、新たな脂質生合成経路の解明とそれら関連酵素遺伝子を活用した油糧微生物での発酵生産へと連動する。 魚をはじめとした様々な海洋生物の臓器および生息海域の海水を単離源として、好気性菌928株、嫌気性菌429株を単離した。また、海水からは好気性菌58株を単離した。これら単離菌株の脂質分析を行い、以下のような結果を得た。 スクワレンを蓄積するバクテリアを単離した。しかしながら、その蓄積量は3 mg/l程度であった。分岐鎖の奇数鎖脂肪酸を蓄積したことからバクテリアであることが推測された。総脂肪酸に占めるこれら奇数鎖脂肪酸の割合は65%に達した。本菌はグルコースだけでなく、スクロースやトレハロースでも良好に生育することが分かった。バクテリアのスクアレン生合成については不明な点も多く、生合成経路の解明と蓄積されるスクアレンの機能性について今後も研究を継続する意義がある。 さらに、アルキルグリセロールを蓄積する微生物を単離した。最終年度では、これらアルキルグリセロールの構造解析を行った。分取精製後、GC-MSやNMR分析に供し、アルキルグリセロールのsn-1位に分岐鎖のC16あるいはC17の炭素鎖を有することが示唆された。希少脂質の生合成の解明が今後期待される。 スクワレン蓄積株のスクワレン生産性は低いものの、その生合成系に関わる酵素遺伝子群を油糧微生物の分子育種に今後応用することで当初目的の脂質生産プロセスの開発に貢献することが期待される。
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