研究課題/領域番号 |
17K07729
|
研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
坂口 政吉 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (80281351)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | トレハラーゼ / 古細菌 / GH15糖質分解酵素 / トレハロース |
研究実績の概要 |
1. クレン古細菌スルフォロバス菌から新規トレハラーゼ様遺伝子二種を取得し、大腸菌を用いた発現系により遺伝子産物を取得した。発現した産物の多くは不溶性タンパク質であり、融合タンパク質発現系も試行したが、改善されなかった。しかし、発現誘導物質を無添加とする発現系で、可溶性タンパク質の取得量が改善された。得られた酵素の酵素化学的解析を行ったところ、二種の酵素は特異的にトレハロースを分解する活性を示したが、トレハロースに対する親和性と触媒定数に違いが見られた:SaTreH1(saci1816遺伝子産物)は触媒定数が高く、親和性が低い。SaTreH2(saci1250遺伝子産物)は触媒定数が低く、親和性が高い。前者は既報の古細菌トレハラーゼと類似した性質であった。さらに前者の酵素において推定される触媒残基へ変異を導入し、加水分解活性が著しく減少する結果を得た。両者の同一性は44%程度であるが、推定上、活性部位を形成する領域(保存領域)ではよく似ているため、活性、親和性の違いは興味深く、今後、変異導入による機能変化を調査していく。さらに、触媒残基の両隣のアミノ酸がスルフォロバス酵素特有であり、既報のサーモプラズマ酵素に対応するアミノ酸に変換したところ、活性の減少が観察された。このことからサーモプラズマ酵素とスルフォロバス酵素の活性部位が若干異なることが示唆された。 2. 既報のサーモプラズマ酵素への変異導入による基質認識残基の検証においては、活性部位を形成している推定の保存配列中、数種の保存されているアミノ酸に変異導入を施し、触媒活性を調査した。調査した変異導入酵素のほとんどの活性が著しく減少し、触媒作用もしくは活性部位形成に寄与していることが示唆された。今後、さらに変異導入箇所を広げて調査する。 。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、新規酵素の取得と解析、既報酵素への変異導入による基質認識残基の検証が主な計画であった。 クレン古細菌スルフォロバス菌からトレハロースに対する親和性や加水分解活性が異なる二種の新規トレハラーゼを同定した。これらをまとめ、原著論文が受理された(印刷中)。しかし、ピクロフィラス菌のトレハラーゼ様酵素の解析においては、酵素は取得できるものの保存中に析出するなど、不安定な性質を示した。この点に関しては、これまで同定してきた酵素の一次構造と機能の相関を調査し、得られた成果をこの酵素に反映し、安定性の向上を目指す予定である。 一方、既報酵素の基質認識残基の調査では、現在、十数種の変異導入酵素を作製し、その機能を調査している。活性部位を形成している推定の保存配列中、保存されているアミノ酸は、触媒作用もしくは活性部位形成に寄与していることが示唆された。今後、さらに変異導入箇所を広げて調査する。さらに、未着手である結晶化への条件検討と解析により、立体構造からの検証も進めていく。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで二種のユーリ古細菌からトレハロースを加水分解する酵素酵素を一種ずつ、一種のクレン古細菌から二種の酵素を同定し、クレン古細菌酵素で活性が低い酵素が得られた。これらを比較すると、活性部位を形成すると推定している一次構造間で、数カ所の異なるアミノ酸が散見される。その違いが基質認識や活性の高さに影響していると推定し、クレン古細菌酵素同士でアミノ酸変換を実施する。一方で、活性の低い酵素の本来の基質を探求すべく、触媒残基を変換した酵素を調製し、フッ化糖などを開始糖に、グルコースや他の単糖と合成反応を実施することも視野に入れる。有機溶媒中での縮合反応によるトレハロース類似体合成を計画していたが、この方法を用いてトレハロース類似体合成も試みる。 GH15ファミリーの糖質分解酵素はN末端ドメインとC末端の触媒ドメインで構成される。古細菌トレハラーゼも似たようなドメイン構成を持つと推定している。ユーリ古細菌酵素において、N末端ドメインのN末端領域を欠損すると、大腸菌発現系で不溶性タンパク質になった。これまで、N末端領域の芳香環アミノ酸が可溶性タンパク質へのフォールディング機能を促進し、水酸基を持つアミノ酸は上記機能に対して負の要素を持つことが示唆された。また、この水酸基が酵素の活性を減少させることも見いだしている。今後、N末端ドメイン単独での発現を調査し、相互作用する箇所を限定する予定である。N末端ドメイン単独で可溶性タンパク質として取得できれば、C末端触媒ドメインと相互作用していることになる(論文作成中)。この相互作用を調べる上でも結晶化の条件検討と解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
他の外部資金が採択されたため、本科研費の次年度使用額が生じた。 塩基配列の解析、DNA オリゴヌクレオチドプライマーの合成、DNA抽出キット、タンパク質精製樹脂、酵素活性解析試薬、結晶化条件検討キットの購入を予定している。
|