研究課題/領域番号 |
17K07731
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
道久 則之 東洋大学, 生命科学部, 教授 (60302957)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大腸菌 / キノン / 有機溶媒耐性 |
研究実績の概要 |
バイオ燃料やファインケミカル等の化学製品等の有用物質生産の効率化のため、微生物の有機溶媒耐性機構が注目されている。これまでに、大腸菌の単一遺伝子欠失株コレクション(Keio collection, 国立遺伝学研究所)の有機溶媒耐性度を調べ、複数の有機溶媒耐性に関与する遺伝子を新規に見出している。本研究では、電子伝達系に関与するキノンの生合成系の代謝産物が大腸菌の有機溶媒耐性化に寄与するものと考え、そのメカニズムを明らかにすることにより、高度な有機溶媒耐性度を示す菌株を構築することを目的とした。これまでの研究結果においてメナキノン生合成に関わるmenA欠失株の有機溶媒耐性度が顕著に向上することが示されていた。メナキノンは、嫌気的呼吸鎖においてユビキノンに相当する電子伝達体として機能しており、menA遺伝子を欠失させると、ユビキノンが増加することが報告されている。menA欠失株の再構築株を用いた結果から、menA欠失株の有機溶媒耐性度は向上しないことが示された。しかし、メナキノン生合成遺伝子の欠失によって蓄積することが予想される中間代謝物を培地に添加すると有機溶媒耐性が向上することを見出した。大腸菌の有機溶媒耐性には、薬剤排出ポンプとして知られるAcrAB-TolCポンプが関与することが知られている。AcrAB-TolCポンプは、AcrA、AcrB、TolCの3つのタンパク質から構成され、プロトン駆動力を利用して菌体内に蓄積した薬剤(抗生物質や色素、有機溶媒など)を菌体外に排出する。そこで、メナキノン生合成遺伝子の欠失によって蓄積することが予想される中間代謝物を培地に添加して、AcrAとTolCの発現量を調べることにした。この結果、中間代謝物を添加した場合には、AcrAとTolCの発現量が増加することが示され、AcrAB-TolCポンプの関与が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、キノン生合成遺伝子の欠失によって蓄積することが予想される中間代謝物を培地に添加すると大腸菌の有機溶媒耐性が向上することを見出すことができた。また、当初予定していたAcrAB-TolCポンプの関与についても調べることにより、キノン生合成中間代謝物によりAcrAB-TolCポンプが増加することを明らかにした。これまでの結果から、キノン生合成系中間代謝物の大腸菌の有機溶媒耐性への関与について、新たな知見を得ることができており、「キノンと有機溶媒耐性の関係を明らかにする」という研究内容については進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
キノン生合成遺伝子の欠失によって蓄積する中間代謝物を培地に添加すると有機溶媒耐性が向上することと、この機構にAcrAB-TolCポンプの増加が関与していることを見出した。今後、この中間代謝物がどのような機構でAcrAB-TolCポンプの増加に関与しているのかについて、さらに調べていく予定である。有機溶媒耐性については、固形培地に有機溶媒を重層して生育頻度を調べる方法を主に使用していたが、応用面を考慮して液体培地に有機溶媒を添加して増殖経過を測定する方法なども検討していく予定である。acrABやtolCはmar-rob-soxレギュロンに属しており、MarA、Rob、SoxSなどの転写活性因子によってAcrAB-TolCの発現が促進されることが知られている。したがって、MarAやRob、SoxSの発現量は、大腸菌のAcrAB-TolCポンプの発現量ならびに有機溶媒耐性に大きく影響することが考えられる。このようなAcrABTolCポンプの発現制御因子への中間代謝物添加の影響についても調べることにより、キノン生合成遺伝子の欠失による有機溶媒耐性化についてさらに明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
会計期限の間際に購入した消耗品の金額が予定額よりも安く、残金が生じた。次年度に物品費として使用する予定である。
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