研究実績の概要 |
有機溶媒の中には微生物に対して生育阻害効果を示すものがある。大腸菌の有機溶媒耐性の改善は、有機溶媒様化合物などの様々な物質の生産に有用である。大腸菌の有機溶媒耐性にはAcrAB-TolC多剤排出ポンプが関与する。AcrAB-TolCポンプはプロトン駆動力を用いて大腸菌の細胞膜に蓄積した有機溶媒を排出することが知られている。acrABやtolCはmar-rob-soxレギュロンに属しており、MarA、Rob、SoxSなどの転写活性因子によってAcrAB-TolCの発現が促進される。これまでの研究で、メナキノンの生合成中間体である1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)が大腸菌の有機溶媒耐性を向上させることが示された。AcrAB-TolC多剤排出ポンプの発現を測定するため、レポータージーンアッセイを行った。DHNAを添加することにより、AcrABやTolCは2倍程度発現が増加することが示された。このことから、DHNA添加における大腸菌の有機溶媒耐性化はAcrAB-TolC多剤排出ポンプの増加が要因の一つとなっていることが示唆された。DHNAを添加したときのMarA、Rob、SoxSの発現量を測定するため、レポータージーンアッセイを行った。その結果、DHNAはMarAやSoxSの発現を誘導させることが示された。特にSoxSの発現は顕著に誘導された。DHNAの構造は、メナキノン前駆体であるキノン系の構造とともに、marAの誘導物質であるサリチル酸様の構造も有している。DHNAはキノン様による酸化ストレスでSoxSの発現量を向上させると同時に、サリチル酸と同様な作用でMarRに作用し、MarAの発現を向上させているものと考えられる。DHNAにより、MarAおよびSoxSの発現を向上させと同時に、AcrAB-TolCの発現を向上させ、有機溶媒耐性を向上させたと考えられる。
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