研究課題/領域番号 |
17K07732
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
水澤 直樹 法政大学, 生命科学部, 教授 (80342856)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / 光合成 / 光化学系II / 光化学系I / 乾燥ストレス / クロロフィル蛍光 / 酸素発生 |
研究実績の概要 |
1)細胞を用いた乾燥ストレスが光合成に与える影響の解析: Anabaena とSynechocystisの細胞をフィルター上に静置し、乾燥処理でおこる脱水に伴う光化学系Ⅱの活性変化をクロロフィル蛍光測定等により解析した。AnabaenaがSynechocystisに比較して、光化学系Ⅱ活性の指標となるクロロフィル蛍光パラメーターFV/FMが乾燥ストレスでより容易に低下することがわかった。乾燥に強いAnabaenaの方が耐性のないSynechocystisに比べより容易に光化学系Ⅱ活性が低下することから、Anabaenaが乾燥下での光酸化ストレスを回避する機構をもつことが推測された。しかし、乾燥後の吸水で光化学系Ⅱ活性を回復する条件は、実験系制御の困難さから決定できなかった。そこで、乾燥処理と似た効果があり、かつ、実験条件を容易に制御できる処理である、ソルビトールを用いた高張処理の実験系を導入した。高張処理においてもAnabaenaがSynechocystisに比較して、光化学系Ⅱ活性の指標となるFv/Fmおよび酸素発生活性がより容易に低下することがわかった。今後は高張処理後に浸透圧を正常化したときに光化学系Ⅱ活性が回復する条件を検討する。 2)インタクトな光化学系Ⅱ標品単離の試み: Anabaena の細胞破砕条件を検討することにより、よりインタクトな光化学系Ⅱ標品を単離することを試みた。従来用いてきたガラスビーズ処理ではなくリゾチーム処理を用いることにより、よりインタクトな光化学系Ⅱ標品が単離できる可能性が示唆された。ただし、まだ、細胞破砕率の再現性が安定しないことから、さらによい破砕条件を検討する。本標品では、SDS-PAGEで従来の光化学系Ⅱ標品でみられなかったタンパク質バンドがみられたので、質量分析を用いてこれらバンドを同定する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AnabaenaがSynechocystisより、乾燥処理でより容易に光化学系Ⅱの活性が低下することは想定と異なっていたが、その急速な活性低下には乾燥から細胞を守る生理的役割があることが予測された。そこで、当初の予定通り、ストレス処理前後の細胞から各々光化学系Ⅱ標品を単離し、その光合成特性を比較する研究をおこなう。また、リゾチーム処理を用いて単離したAnabaena光化学系Ⅱ標品では、よりインタクトで大きな複合体を保持している可能性を示唆する興味深い知見も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
乾燥処理による脱水条件を実験室内で精密に制御するのは予測よりも困難であった。これが研究推進の律速になっていたので、乾燥処理に近似できるよりよい実験系を検討した。その結果、ソルビトールを用いた高張ストレスが乾燥ストレスと近似できることがわかったので、今後は高張ストレス細胞も用いて研究を進める。乾燥処理では脱水の速度を制御するのが難しく再現性を得るのに手間と時間がかかったが、高張ストレスはソルビトール濃度で容易にストレス強度を再現性よく制御可能なため、研究の推進速度を上げることができると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はほぼ予定通りに予算を使用することができた。年度末に光化学系Ⅱ標品の単離に用いる高価な界面活性剤を使い切る可能性があったので、残予算を残しておいたが、界面活性剤が足りたために次年度使用額が少し生じた。次年度は試薬を冷蔵保管するために用いる冷蔵ショーケースを備品として購入する計画である。当該年度に比べ、細胞をより大量に培養する必要があり、また、光化学系Ⅱ標品もより多く調製し、その分析をする必要があるため、試薬など培養・精製・分析に用いる消耗品を主体に購入する計画である。
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