研究課題
本研究では、翻訳と寿命の関連性を明らかにすることを目的としている。翻訳過程の中でも、開始メチオニンtRNA(initiator methionine tRNA; tRNAiMet)に着目した。tRNAiMetはメチル化修飾を受けることから、そのメチル化酵素の同定とメチル化制御、老化・寿命に伴ったメチル化の増減、またそれらの老化・寿命への影響について、分子生物学的・分析化学的・分子遺伝学的な手法を駆使して解析を行っている。既にtRNAiMetのメチル化修飾に関与する酵素を同定し、ノックダウンによる酵素の発現減弱が寿命延長を惹起することも見出している。本研究推進の基盤となるメチル化検出方法については、昨年度までに、dNTP濃度変化を利用したリアルタイムPCRによるtRNAのメチル化の検出方法を確立した。しかしながら、このメチル化検出方法は、数~数十塩基内にメチル化塩基が存在することを検出する方法であったため、今年度はこの精度を高めるべく方法の改良を実施し、リボソームRNAでは、1塩基単位の精度でメチル化を検出することが可能となった。今後、tRNAiMetのメチル化状態について解析を進めていく予定である。また、絶食・摂食などの栄養環境ストレスや老化によるメチル化状態について解析したところ、老化に伴ってメチル化が変化していた。酵素の発現制御については、既にtRNAiMetのメチル化酵素に特異的な抗体を作製・取得しており、栄養環境ストレスや老化など様々な条件下で発現量を解析し、酵素発現とメチル化状態の相関を明らかにしていく。これらの方法を用いて、tRNAiMetメチル化制御機構を明らかにし、それらが寿命・老化に及ぼす影響を解明していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度までに、メチル化検出方法の確立・改良と特異的な抗体を用いたメチル化酵素発現の検出を完了させている。これによって、基質側(tRNA)とメチル化酵素の両面からメチル化制御を解析出来るようになった。また、予備実験ではあるが、すでに老化に伴ってtRNAiMetのメチル化状態が変化することを見出しており、今後、寿命制御との関連を解析する上で重要な知見となると考えている。
老化に伴ったメチル化状態の変化をより詳細に解析していく。また、栄養環境ストレス下でのメチル化やメチル化酵素の発現の変化も解析する。また、昨年に引き続き、長寿に関連する遺伝子変異体やノックダウン法を用いて、tRNAiMetのメチル化と寿命との関係を明らかにしていく予定である。
本年度より所属研究機関が変更になり、研究環境の整備のために昨年度使用予定であった予算を本年度に使用した。研究環境の整備を予定よりも低額で行うことが出来たため、次年度使用額が生じた。
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J. Biol. Chem.
巻: 294 ページ: 3091-3099
10.1074/jbc.RA118.004726.