研究課題/領域番号 |
17K07749
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
中川 寅 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (10281049)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | (プロ)レニン受容体 / ATP6AP2 / プロセシング酵素 / ヘパリン結合 / ヘパラン硫酸プロテオグリカン / furin / site-1 protease |
研究実績の概要 |
(プロ)レニン受容体 (PRR)の段階的プロセシングによって細胞が多様な可溶型PRRを作り出す生物学的意味を明らかにするため、本研究ではPRR中のfurin切断配列(RKTR278↓)がヘパリン結合性モチーフBBXB(Bは塩基性アミノ酸)に合致することに着目し、PRRのヘパリン結合性を検証する。 平成30年度、以下の研究成果を得た。(1)前年度、可溶型PRRのC末端部RKTR278配列の一部もしくは全部を人為的に欠損させるとin vitroでのヘパリン結合能が低下することを見出した。そこで本年度、細胞内でもC末端の分解(欠損)が起こるか、ヒト子宮頸癌由来HeLa細胞において、プロテアーゼ阻害剤、RNA干渉、可溶型PRRのC末端に特異的な切断部位特異抗体を用いて解析した。その結果、furinによる切断後の可溶型PRRのC末端R278残基がcarboxypeptidaseによってトリミングされてT277となることを見出した。(2)可溶型PRRには、当初の検討対象としていたfurin切断配列(RKTR278↓)以外にもヘパリン結合部位が存在することが前年度結果から示唆された。そこで本年度、RKTR278を含む4か所を候補部位として選び出し、アミノ酸変異を導入してヘパリン結合性に与える影響を解析した。その結果、これら4か所はいずれもヘパリン結合部位として働くことが示唆された。また可溶型PRRのヘパリン結合性に対する各部位のおおよその寄与度が知れた。(3)On-Cell Western法を用いた、ヒト乳癌由来MCF7細胞への可溶型PRR結合アッセイを構築し、可溶型PRRがヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合することを示唆する予備的結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に関連して、細胞において、これまでに研究代表者らが明らかにしたPRRのsite-1 protease(RTIL281↓)とfurin(RKTR278↓)による2段階のプロセシングに加えて、さらにcarboxypeptidaseによってfurin切断後のC末端残基のトリミング(RKT277↓R278)が起こることを見出した。大腸菌発現系を用いて生産した可溶型ヒトPRRを用いたin vitro実験で、このトリミングによって可溶型PRRのヘパリン結合性が低下することを既に見出しており、細胞との結合の様子も変化すると考えられる。On-Cell Western法を用いて、可溶型PRRと細胞表面に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンとの結合解析法も構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
当初、可溶型PRRは、そのC末端部に存在するヘパリン結合性モチーフを欠損させるとヘパリンとの結合性を失うと予想していたが、欠損させても結合性は完全には失われなかった。そこで今後は、大きく以下の2つに分けて研究を進める。(1)新規なヘパリン結合性タンパク質としての可溶型PRRの働き。(2)C末端部ヘパリン結合性モチーフのトリミングが細胞との結合に及ぼす影響。(1)について、可溶型PRRと細胞表面に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンとの結合解析を、引続きOn-Cell Western法を用いて進める。(2)について、遺伝子導入によってヒトPRRを過剰発現させた細胞でスフェロイド(細胞凝集塊)を形成させて、細胞外に分泌された可溶型PRRの細胞間隙での拡散性を解析する。その際、スフェロイドをプロテアーゼ阻害剤処理することで分泌される可溶型PRRのタイプを変化させ、拡散の様子を解析する。C末端トリミングの影響を詳細に解析するには、細胞カラムを用いたフロー型の結合解析が必要と考えている。平成30年度、固定した細胞を詰めたカラムを作製し、大腸菌発現系を用いて調製した可溶型ヒトPRRを用いて実際に解析を試みたところ、可溶型PRR標品に含まれる界面活性剤の影響で期待した解析ができなかった。そこで今後は、可溶型PRRを動物培養細胞で生産し、また細胞を付着させたマイクロキャリアで細胞カラムを作製することで、問題の解決を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体など、購入を予定していた一部物品を購入しなかった。また、論文公表を想定して計上していた英文校閲と論文掲載に対する支出が本年度なかったことから、次年度使用額が生じた。未購入物品は次年度購入予定である。また、これまでに得られた研究成果について現在、論文原稿作成中のため、英文校閲料と論文掲載料についても次年度支出予定である。
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