研究課題
環境ストレスに曝された植物が放散する「香り」は,植物間コミュニケーションに重要な役割を演じている。近年,植物が「香り」を取り込み,配糖化することで植物間の情報伝達を行っていることが報告された。しかし,植物が,大気を介した「香り」を「いつ」,「どこで」,「どのように」配糖化するのかは,未解明のままである。本研究課題「植物防御応答を司る「香り」の配糖化メカニズムの解明」は,チャ (茶) が放散する揮発性モノテルペン「ジオール」に着目し,重水素ラベル化したジオールを植物の環境防御応答のプローブとして活用し,①配糖体の時間的・空間的貯蔵の仕組み,②配糖化酵素の同定,③配糖体の生理生態学的意義を明らかにすることを目的とする。本研究を通して,「香り」の受容機構の一つである“配糖化反応”を分子レベルで解明することを目的とした。本年度は,三級テルペンアルコールを配糖化する単糖配糖化酵素の探索・同定を実施した。三級テルペンアルコールであるジオールやリナロールの配糖体を含むチャやイモなどをから目的酵素をクローニングし,ESTデータライブラリーと照合し,その部分配列を決定し,RACE法により全長cDNAを同定した。大腸菌異種発現系をもちいて目的酵素を抽出し,酵素活性試験を行った。酵素反応代謝産物を液体クロマトグラフ-質量分析装置で分析した結果,三級アルコールであるリナロール,ジオール,ホートリエノールを特異的に配糖化する糖転移酵素を見出した。
2: おおむね順調に進展している
実施項目②ジオール配糖化酵素の同定を今年度中に実施することができた。これまで香気配糖化酵素は主として一級テルペンアルコールであるゲラニオールやネロールに対する活性が顕著に高かったが,植物に多く内生する三級テルペンアルコール配糖体の生合成解明に対して,本成果は一助となる。早期に実現できた要因の一つに,チャESTデータベースを構築したことが大きい。
同定した三級テルペンアルコール配糖化酵素の時間的,空間的貯蔵の解析を遺伝子発現を消長を追跡しながら解析する。また傷害応答で生じるジオールの生合成酵素との共発現パターンの解析も実施することにより,香りの受容機構である配糖化反応を分子レベルで解明することで,植物の環境防御応答に関する新しい知見を集積する。
新たな次世代シークエンサー分析に必要な分析費用および試薬代を計上していたが,従前に保持していたESTライブラリーを用いることで,目的遺伝子のクローニングおよび同定に成功したことが次年度使用額が生じた原因である。他の植物において第三級テルペンアルコール配糖化酵素を同定するための次世代シーケンサー分析の試薬代および分析費用に充てる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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