研究課題/領域番号 |
17K07752
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高原 照直 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (90708059)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | mTOR / mTORC1 / アミノ酸 / カルシウム |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の点について研究を実施した。 (1) アミノ酸依存的な細胞内カルシウム濃度上昇を感知する因子の同定 カルシウム結合タンパク質に焦点を当て、カルシウム濃度上昇からmTORC1活性化へとつなげる因子の探索を行った。その結果、カルモジュリン(CaM)の阻害剤により、mTORC1基質の1つであるS6K1のリン酸化が抑制されることがわかった。したがって、アミノ酸による細胞内カルシウム濃度上昇はCaMを介してmTORC1へと伝達されることが考えられた。次に、CaMと既知mTORC1経路構成因子と結合する可能性について検討した。その結果、CaMはTSC2とカルシウム依存的に結合することが明らかとなった。さらにCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集によりTSC2ノックアウト細胞を構築した。このTSC2 KO細胞にCaM阻害剤を処理すると、親細胞に比べて、S6K1の脱リン酸化が抑制されており、CaM阻害剤に耐性を示した。以上の結果から、細胞内カルシウム濃度上昇はCaM-TSC2を介してmTORC1を制御することが示唆された。
(2) カルシウム濃度上昇依存的なmTORC1活性化の細胞内機能への影響 mTORC1の機能として、タンパク質の翻訳制御が知られている。そこで、アミノ酸依存的なカルシウムシグナルがタンパク質合成能に影響するかを検証した。puromycinがtyrosyl tRNAの代わりに取り込まれることを利用したpuromycinラベリング法により、タンパク質合成量を調べた結果、カルシウムキレート剤であるEGTAにより、アミノ酸依存的なタンパク質合成が少し抑制されたことから、カルシウム濃度上昇がタンパク質合成にも影響することがわかった。また、リソソーム生合成を制御する転写因子TFEBのリン酸化に対してもEGTAによる抑制効果がみられるが、こちらに関してはさらなる検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度行った研究から、細胞内での一次カルシウムセンサーとしてCaMが浮かび上がり、またCaMがTSC2と結合することが判明し、これらにより新しいmTORC1制御機構に迫る重要な基礎知見が得られた。一方で、昨年度進めていたRheb GTPaseの活性モニター系の構築については、Rhebに結合する因子を用いて行ってきたが、その後の解析から両者の結合が弱く安定した実験系を構築するのは現時点では困難であることも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行なった実験結果から、アミノ酸依存的なカルシウム濃度上昇はCaMを介してmTORC1の制御に関わることが考えられた。また、CaMはTSC2を制御することで機能を発揮していると推察されるが、具体的なメカニズムはわかっていない。今後は、CaMとTSC2に焦点を当て具体的なmTORC1制御への関わりについて検証していく。また、TSC2はmTORC1活性化因子のGAP(負の制御因子)として働くことが報告されているが、RhebによるmTORC1の活性化には不明な点が多い。そこで、RhebによるmTORC1の活性化機構についても併せて調べることで、CaMを介した新規mTORC1活性調節機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はほぼ計画通りに使用したが、購入品などのキャンペーン割引などで、わずかに(1%程度)未使用額が生じた。この額を次年度に使用することで、消耗品等を十分に購入できると考えられるが、次年度の使用額全体からするとごくわずかな増額であるため、使用計画の大きな変更はない。
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