最終年度である本年度は、昨年度見出した点について下記2点についてより詳細な解析を進めた。 (1) アミノ酸依存的な細胞内カルシウム濃度上昇を感知する因子の同定 昨年度までに、アミノ酸刺激に応答して上昇する細胞内カルシウム濃度をカルモジュリン (CaM)が認識して、mTORC1経路上の負の制御因子であるTSC2と相互作用することを見出した。そこで、CaMとTSC2との結合がどのようにして行われているかを免疫沈降法により解析を進めた。その結果、CaMはTSC2のN末端側とC末端側の複数箇所で結合する可能性が考えられた。このようなCaMと全長TSC2との結合に関する報告はなく、新しい制御機構の可能性が示唆された。また、TSC2KO細胞にCaM阻害剤を処理しても、mTORC1活性の低下が見られなかったことから、TSC2の標的であるRheb GTPase恒常的活性化型変異体発現細胞においてCaM阻害剤の効果を検証したところ、こちらもmTORC1活性の低下が抑制された。したがって、CaM阻害剤はRheb GTPaseの活性を低下させることでmTORC1経路を抑制することが示唆された。
(2) カルシウム濃度上昇依存的なmTORC1活性化の細胞内機能への影響 昨年度までのの解析から、アミノ酸刺激に応答して上昇する細胞内カルシウム濃度が、細胞内のタンパク質合成に重要な働きをすることが判明した。さらに、mTORC1の基質である転写因子TFEBのリン酸化への影響を調べたところ、カルシウムキレート剤によってアミノ酸依存的なTFEBのリン酸化が抑制される結果が得られた。これらのことから、アミノ酸依存的なカルシウム濃度上昇がmTORC1の広範な細胞機能に影響を与える重要なシグナルを担うことが考えられた。
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