研究課題
脂質蓄積異常変異体tar1の解析からタンパク質リン酸化酵素TAR1が光合成活性を抑制し酢酸吸収を促進することで脂質・デンプン蓄積を制御することを示し、TAR1のリン酸化標的として転写因子様タンパク質MYBL4を見出した。mybl4変異体はtar1と似た高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型を示すことからMYBL4がTAR1によるリン酸化制御を受け下流遺伝子の発現を制御していると予測した。しかし野生型とmybl4変異体との子孫株における連鎖解析の結果、この変異体の表現型の原因遺伝子はMYBL4ではなくその他の複数の遺伝子座への変異によるものである可能性が高いことが示された。そこでmybl4変異体の更なる解析は行わないこととした。一方、mybl4変異体の解析と並行して他のTAR1のリン酸化標的因子の変異体解析を進めた結果、タンパク質リン酸化酵素ドメインを持つ遺伝子の変異体がtar1と似た高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型を示すことがわかった。さらにこの変異体にFLAGタグを連結した野生型タンパク質リン酸化酵素遺伝子を導入したところ、FLAG融合タンパク質を発現した株でのみ、表現型の相補が見られたことから、本変異体の高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型の原因はこのタンパク質リン酸化酵素遺伝子へのDNAタグの挿入による可能性が高いと考えられた。以上のことから、TAR1の下流で働く新奇なタンパク質リン酸化酵素遺伝子を見出すことに成功した。今後、この酵素遺伝子の更なる解析を進め、TAR1を基点としたタンパク質リン酸化を介したシグナル経路の全容解明に迫る。
2: おおむね順調に進展している
藻類の栄養欠乏応答機構の制御因子TAR1の下流の制御機構を明らかにするため、TAR1のリン酸化標的候補であるMYBL4の変異体解析を進めたが、遺伝解析の結果、予想に反してこの変異体の表現型の原因遺伝子はMYBL4遺伝子ではなくその他の複数の遺伝子座への変異によるものである可能性が高いことが示された。そこで当初計画していたmybl4変異体の更なる解析は行わないこととした。一方で、他のTAR1のリン酸化標的候補としてTAR1と同様にタンパク質リン酸化酵素をコードすると考えられる遺伝子の変異体がtar1変異体と似た高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型を示すことを見出すことに成功した。この遺伝子にFLAGタグを連結したFLAG融合タンパク質を発現した株では変異体の表現型が回復したことから、高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型の原因遺伝子であると考えられる。このように、本年度にTAR1の下流で働くと考えられる新奇なタンパク質リン酸化酵素を見出すことに成功し、この変異体解析を進めたことで、TAR1を基点とした下流の新奇シグナル経路の解明という研究目的は進展していると判断した。
今後、対象としたタンパク質リン酸化酵素遺伝子の変異体解析を以下のように進める。1.目的タンパク質のTAR1によるリン酸化サイトと予想されるアミノ酸残基を置換した変異型タンパク質を変異体において発現させ、表現型の回復を調べることで、これらのアミノ酸残基のリン酸化が高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型にどのくらい重要であるかを検証する。2.野生型と本変異株との交配子孫株を用いた遺伝解析により、高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型が真にこのタンパク質リン酸化酵素遺伝子の欠損によるものであることを証明する。3.大腸菌において発現させたこのタンパク質リン酸化酵素の組換えタンパク質を用いてin vitroリン酸化アッセイを行い、活性のあるタンパク質リン酸化酵素タンパク質であることを示す。
今年度中に行ったtar1変異体の論文投稿が、審査の結果、改訂と英文校閲を受けた後に新たな雑誌への再投稿が必要となった。そこで、英文校閲と投稿に伴う経費として、当該金額を次年度に繰り越す。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Plant Physiol.
巻: 174 ページ: 999;1011
10.1104/pp.17.00070
Plant Signal Behav.
巻: e1338225 ページ: e1338225
10.1080/15592324.2017.1338225