研究課題
脂質蓄積異常変異体tar1の解析から、タンパク質リン酸化酵素TAR1が光合成活性を抑制し酢酸吸収を促進することで脂質・デンプン蓄積を制御するマスター制御因子であることが示された(梶川ら、2015)。TAR1のリン酸化標的候補である別のタンパク質リン酸化酵素についての変異体が、高脂質蓄積の表現型を示すことを見出した。またこの変異体では最大量子収率が野生株よりも高く維持された。その一方、tar1変異株とは異なり、クロロフィルとデンプン、光合成関連タンパク質については野生株と同様に減少した。また接合率には異常は認められなかった。この変異体にFLAGタグを連結した野生型タンパク質リン酸化酵素遺伝子を導入したところ、FLAG融合タンパク質を発現した株でのみ表現型の相補が見られたことから、この変異体の表現型の原因はこのタンパク質リン酸化酵素遺伝子へのDNAタグの挿入による可能性が高い。さらに、TAR1によりリン酸化されると推定されるセリン残基をアラニン置換すると変異相補性を喪失した。また蛍光タンパク質との融合タンパク質発現により、このタンパク質リン酸化酵素が細胞膜に局在することが示された。また、in vitroリン酸化アッセイにより、このタンパク質リン酸化酵素がミエリン塩基性タンパク質に対してリン酸化活性を示すことを見出した。以上のことから、TAR1の下流で脂質蓄積と光合成活性に限定して働く新奇なタンパク質リン酸化酵素を見出すことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
藻類の栄養欠乏応答機構の制御因子TAR1の下流の制御機構を明らかにするため、TAR1のリン酸化標的候補である別のタンパク質リン酸化酵素についての変異体解析を進めた。この遺伝子にFLAGタグを連結したFLAG融合タンパク質を発現した株では変異体の表現型が回復したことから、高脂質蓄積、高光合成活性の表現型の原因遺伝子であると考えられる。さらに、TAR1によりリン酸化されると推定されるセリン残基をアラニン置換すると変異相補性を喪失した。また蛍光タンパク質との融合タンパク質発現により、このタンパク質リン酸化酵素が細胞膜に局在することが示された。また、in vitroリン酸化アッセイにより、このタンパク質リン酸化酵素がミエリン塩基性タンパク質に対してリン酸化活性を示すことを見出した。このように、本年度にTAR1の下流で働くと考えられる新奇なタンパク質リン酸化酵素の変異体解析を進めたことで、TAR1を基点とした下流の新奇シグナル経路の解明という研究目的は進展していると判断した。
最終年度、対象としたタンパク質リン酸化酵素遺伝子の変異体解析について、得られたデータをまとめ論文投稿を行う。また、別のtar1様の高クロロフィル、高脂質蓄積の表現型を示す変異株についても同様の解析を進める。これらの知見により、C/Nストレス条件における光合成低下、細胞死、脂質・デンプン蓄積といった緑藻の示す応答反応の分子機構を包括的に理解する。
今年度中に行ったリン酸化酵素変異株の解析についての論文を来年度投稿する予定となった。そこで、英文校閲と投稿に伴う経費として、当該金額を次年度に繰り越す。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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