研究課題
マメ薬用植物カンゾウにおいて、トリテルペノイド配糖体のソヤサポニン生合成に関わる3種の酵素(β-アミリン合成酵素、CYP93E3、CYP72A566)遺伝子プロモーターからの転写を顕著に活性化するbHLH型転写因子(GubHLH3)を同定し、Plant and Cell Physiology誌において発表した。ソヤサポニンはカンゾウに限らずマメ科植物全般に共通して含まれているトリテルペノイドであるがその生物学的機能および生合成制御機構についてはほとんど不明である。そこで、カンゾウから見出されたGubHLH3の機能がマメ科植物全般において保存されているかを調べるため、GubHLH3を高発現するマメ科モデル植物ミヤコグサの毛状根を作出し、ソヤサポニン生合成関連酵素遺伝子の発現におよぼす効果を解析した。その結果、GubHLH3はミヤコグサにおいてもソヤサポニン生合成に関わる既知酵素遺伝子(β-アミリン合成酵素、CYP93E3オルソログ、CYP72A566オルソログ)の発現を活性化することが判明した。また、GubHLH3高発現ラインのトランスクリプトーム解析を行うことによって、GubHLH3の制御下で発現が活性化あるいは抑制される多数の遺伝子を発見した。これによりサポニン生合成と他の代謝系とのクロストークの有無やソヤサポニンの生物学的機能を推察するうえで重要な情報が得られた。また、カンゾウのグリチルリチン生合成経路を活性化する転写因子の候補を探索するため、乾燥処理したストロン組織のトランスクリプトーム解析を行い、これまでに得られている各組織・各種ストレス処理(ホルモン、エリシター処理など)時のデータと合わせて遺伝子共発現解析を行うことで幾つかの候補転写因子を見出した。
2: おおむね順調に進展している
カンゾウのゲノム情報を活用して既知のトリテルペノイド生合成に関わる酵素遺伝子のプロモーターを全て単離するとともに、ソヤサポニン生合成に関わるβ-アミリン合成酵素、CYP93E3、CYP72A566遺伝子プロモーターからの転写を顕著に活性化するbHLH型転写因子(GubHLH3)の同定に成功した。GubHLH3の機能がマメ科において保存されたものかを調べるため、GubHLH3を高発現するマメ科モデル植物ミヤコグサの毛状根を作出しトランスクリプトーム解析を行った。その結果、ソヤサポニン生合成に関わる3種の酵素(β-アミリン合成酵素、CYP93E3オルソログ、CYP72A566オルソログ)遺伝子の発現量が増高していること、すなわちGubHLH3が別のマメ科植物においても同様にソヤサポニン生合成を活性化する機能を発揮しうることが判明した。さらに、GubHLH3を高発現するミヤコグサにおいては幾つかの機能未知の糖転移酵素やABCトランスポーターの遺伝子の発現量も増高していたことから、これらがミヤコグサにおいてソヤサポニンの生合成や輸送に関わっている可能性が示唆された。また、カンゾウの培養ストロンを乾燥処理するとグリチルリチン生合成に関わるCYP88D6の発現量が増高することから、乾燥処理後のトランスクリプトーム解析を行いデータ解析に着手した。
上述のように、カンゾウGubHLH3を高発現するミヤコグサにおいてソヤサポニン生合成関連酵素(β-アミリン合成酵素、CYP93E3オルソログ、CYP72A566オルソログ)遺伝子の発現量が増高することが判明した。そこで、ミヤコグサのゲノム情報からGubHLH3オルソログ候補を探索し2種のオルソログ候補を見出した。そこで、これら2種のGubHLH3オルソログ候補の機能を明らかにするため、ミヤコグサのレトロトランスポゾン挿入変異体のコレクションからGubHLH3オルソログ候補遺伝子が破壊されている変異系統の種子を各2ライン入手した。そこで、これらの系統についてホモ変異体を分離しサポニン生合成酵素遺伝子の発現、サポニン含量ならびに表現型におよぼす効果を解析する。また、カンゾウにおいてグリチルリチン生合成を活性化する転写因子候補については、候補となる転写因子のcDNAクローニングならびにグリチルリチン生合成酵素(CYP88D6およびCYP72A154)遺伝子プロモーターからの転写を活性化しうるか否かをタバコプロトプラストを用いたコ・トランスフェクションアッセイ系により解析するとともに、候補転写因子を高発現する組換えカンゾウ毛状根を作出しグリチルリチン生合成関連酵素の発現におよぼす効果を解析する。また、GubHLH3高発現ミヤコグサのトランスクリプトーム解析から見出された機能未知ソヤサポニン生合成関連糖転移酵素についても酵素活性試験を行う。
平成30年度はカンゾウおよびミヤコグサのRNA-seq法によるトランスクリプトーム解析(計16検体)をおこなった。通常、RNA-seq解析を外部委託すると1検体あたり10万円以上のコストが必要である。しかしながら、本研究ではかずさDNA研究所との共同研究としてトランスクリプトーム解析を行うことでコストを大幅に削減した。助成最終年度である翌年度は、予想以上の成果が得られていることから、学会発表および論文投稿に係る経費支出が多くなる予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)
Plant Biotechnology
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Phytochemistry
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