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2018 年度 実施状況報告書

砂漠の野生種スイカにおける光反射機能の分子基盤

研究課題

研究課題/領域番号 17K07755
研究機関鳥取大学

研究代表者

明石 欣也  鳥取大学, 農学部, 教授 (20314544)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードクチクラ層 / ワックス / 乾燥耐性 / 野生種スイカ / アルカン
研究実績の概要

乾燥耐性を有する乾燥地植物において、クチクラ層がどのようなメカニズムにより強化されるのかについて理解することを目的に、強光・乾燥ストレス下におけるボツワナ・カラハリ砂漠原産の野生種スイカの葉におけるクチクラ・ワックス関連因子の分子生理挙動を解析した。葉面に沈着するワックス総量を測定した結果、下位葉および中位葉において、単位面積当たりのワックス沈着量がストレス6日間で約6-8倍に増加することが示された。一方、上位葉はワックス増大が緩やかであり、代わりに葉を立てて葉面を閉鎖する傾向が観察された。さらに中位葉では、ストレス前は炭素鎖長28の長鎖アルコールが主成分なのに対し、ストレス後には炭素鎖長31のアルカンを中心とするアルカン類が著しく増大する傾向が示された。
アルカンは長鎖アシルCoAを基質として、細胞内のERのCER1/CER3複合体により還元され、アルデヒド中間体を経て生合成される。CER1およびCER3の両者は、脂肪酸還元酵素ファミリーに属する。スイカのゲノム解析の結果、スイカにおいてCLCER1およびCLCER3遺伝子が存在し、ワックスの高度な蓄積に先立つ乾燥ストレスの3日目において、両遺伝子が転写レベルで活性化していること、また両遺伝子と転写プロファイルが近似する転写因子が存在することが示された。
これらの結果は、野生種スイカがストレスに応答して、ワックス類の量および組成の両方を制御していること、またその応答が葉の位置に依存すること、さらに野生種スイカにおける環境ストレス下でのクチクラ・ワックス蓄積量の強化に、転写制御メカニズムが関与していることを示唆している。なお、ストレス下でアルカン・長鎖アルコール組成比を変化させることはこれまで報告されたことがなく、その生理的意義は不明であるが興味深い。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

上記の研究実績の概要で記したクチクラワックスの蓄積メカニズムの解明を進める上で、野生種スイカにおける遺伝子操作法を確立し効率を高めていくことが重要となる。従来法のアグロバクテリウム法では、感染時に防御反応が惹起され個体再生効率を低下させてしまう弊害があった。そこでストレスホルモンであるエチレン産生を低減させることでアグロバクテリウム法による形質転換効率を改善させることを試みた。様々なエチレン阻害剤が形質転換効率に及ぼす影響を解析した結果、エチレン前駆体の1-aminocyclopropane-carboxylic acid (ACC)をケトブチル酸とアンモニアに分解するACCデアミナーゼ遺伝子(acdS)を有するアグロバクテリウムを用いた際に、硝酸銀やaminoethoxyvinylglycine (AVG)などの化学阻害剤に比べ、エチレン蓄積が顕著に抑制されることが示された。また、GUS組織染色解析および 酵素活性解析により、acdS遺伝子は化学阻害剤に比べ遺伝子導入促進効果が高いことが示された。さらに、形質転換シュートの形成効率は、acdS遺伝子導入区またはAVG処理区において高かった。これらの実験結果は、野生種スイカにおいて、acdS遺伝子等を利用してエチレン産生を抑制することが形質転換体作出に有効であることを示しており、クチクラワックス因子の遺伝子機能解析をスピードアップする上で必要な技術革新を進めることが出来た。また、本技術は野生種スイカにとどまらず難形質転換植物に適用できる波及効果を持つと思われる。

今後の研究の推進方策

クチクラの生合成経路は、(i) プラスチドにおけるC18脂肪酸の新規合成とERへの輸送、(ii) ERのfatty acid elongaseによる長鎖脂肪酸の合成、(iii) 長鎖脂肪酸の誘導体化による長鎖アルコール、長鎖アルデヒドおよびアルカンの生合成、(iv) 長鎖脂肪酸および誘導体の細胞外への輸送とポリマー形成、の4段階に大別できる。野生種スイカにおいては、これら4段階を担う遺伝子群においてストレス発現誘導が広範にみられており、クチクラ強化の転写メカニズムが広範な下流遺伝子を支配することが示唆されるが、特に(iv)のワックス細胞外輸送の因子群(LTP: Lipid-transfer protein等)に極めて強い転写誘導が引き起こされている。そこで今後の研究では、LTP遺伝子群を転写制御のレポーター遺伝子として利用して解析を進める予定である。これら遺伝子群を支配する転写因子群について、当該遺伝子群のノックダウン野生種スイカ植物と、過剰発現シロイヌナズナ植物を育成中であるので、今後はこれらの形質転換体を用いた機能解析を進めていく予定である。

次年度使用額が生じた理由

次年度において組換え植物を用いた諸解析を大規模に行うように計画を修正した。具体的には、組換え体を用いたワックス分析、光反射特性の生理的分析、遺伝子発現解析などである。このため、これに伴い諸経費が次年度に生じることが見込まれたために、使用計画を見直した。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Comparative effects of ethylene inhibitors on Agrobacterium-mediated transformation of drought-tolerant wild watermelon.2018

    • 著者名/発表者名
      Malambane, G., Nonaka, S., Shiba, H., Ezura, H., Tsujimoto, H., Akashi, K.
    • 雑誌名

      Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry

      巻: 82 ページ: 433-441

    • DOI

      https://doi.org/10.1080/09168451.2018.1431516

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] The cDNA structures and expression profile of the ascorbate peroxidase gene family during drought stress in wild watermelon.2018

    • 著者名/発表者名
      Malambane, G., Tsujimoto, H., Akashi, K.
    • 雑誌名

      Journal of Agricultural Science

      巻: 10 ページ: 56-71

    • DOI

      https://doi.org/10.5539/jas.v10n8p56

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 乾燥地植物の光反射特性および表皮に蓄積する化合物プロファイルの解析.2018

    • 著者名/発表者名
      山田 みな美,只野 翔大,留森 寿士,辻本 壽,明石 欣也
    • 学会等名
      日本農芸化学会中四国支部例会
  • [学会発表] 乾燥地の植物葉における光反射の分光特性と、表皮に蓄積する化合物プロファイルとの関連2018

    • 著者名/発表者名
      明石 欣也,山田 みな美,只野 翔大,岸田 真由子, 留森 寿士,辻本 壽
    • 学会等名
      日本植物細胞分子生物学会
  • [学会発表] Watermelon in the desert: Molecular response, metabolic regulation, and drought tolerance.2018

    • 著者名/発表者名
      Kinya Akashi
    • 学会等名
      Second Interdisciplinary and Research Alumni Symposium iJaDe2018
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2019-12-27  

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