研究課題
クチクラ層はワックス類の重合体の内に低分子疎水性物質が沈着する構造をしているとされているが、従来のガスクロマトグラフィーで分析可能な分子種は抽出可能な低分子化合物に限定され、光反射に対する寄与度が大きいと考えらえる疎水性高分子化合物群の分子特性および構造情報の理解は非常に遅れており、技術的問題の解決が求められていた。フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)は、対象物質の赤外線吸収スペクトルを利用して化合物を定性・定量する技術である。他のメタボローム法の多くが生体内の低分子を対象とするのに対し、FT-IR法は高分子(細胞壁・疎水性ポリマー等)の組成や構造の分析が可能であり、鋭敏な分析ツールとして機能し得る。しかしながらこの手法を乾燥地植物に適用した研究は報告されていなかった。そこで、FT-IR分析の1技法であるFTIR-ATR (attenuated total reflection: 全反射法)を用いて、葉表面における化学組成を分析する実験系を構築し、強光順化前後のクチクラ層の変化を測定したところ、いくつかの高分子成分において、強光順化に伴いその蓄積量が顕著に変化することを見出した。この新手法は、ワックス類が高分子化するクチクラ層の高次構造の変化を評価する上で効果的な実験手法であり、今後において植物環境ストレスの分子機構の理解だけではなく、育種等への応用も期待され興味深い。また、クチクラ層ワックスの強化は、上述の乾燥ストレス下に加え、重金属への暴露下においても起こること、またこの応答は金属種特異的であり、かつ植物種により応答が変化することを見出した。今後さらに、クチクラ層への重金属沈着と、ワックス成分への結合様式についてさらに解析を進めると共に、上述した高分子を含むワックス層形成および金属沈着を制御する分子機構の解析を進め、植物の光反射を担う仕組みの理解を深める予定である。
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Journal of Environmental Biology
巻: 40 ページ: 1109-1114
doi.org/10.22438/jeb/40/5/MRN-1052