研究課題/領域番号 |
17K07757
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
矢中 規之 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (70346526)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | choline / GDE5 / liver / glycerophosphocholine / genome editing |
研究実績の概要 |
GDE5全身欠損マウスを樹立し,コリン代謝に関する基礎的解析を行った.肝臓,および骨格筋から水溶性画分を調製し,コリン,GPC,ベタインなどコリン代謝物濃度を測定した.その結果,GPC濃度の有意な蓄積,およびベタイン濃度の低下が認められ,in vivoにおいてもGDE5がGPCからコリン生成に関与する鍵酵素であることが明らかになった.GDE5全身欠損マウスを用いて,choline欠乏食(脂肪肝モデル)群,酒石酸cholineを0.2%になるように添加した対照群を作製し,3週間飼育を行なった結果,ALTなど肝障害マーカー,血中脂質,血中コレステロール値などの生化学マーカーにおいて有意な差は認められなかったが,再試を行う予定である.さらに肝臓特異的GDE5欠損マウスの作製を目的として,CRISPR/Cas9システムを利用したゲノム編集法を用いて標的となるexon 11をCreリコンビナーゼ標的配列loxPで挟んだ遺伝子座を持つマウス(floxマウス)の作出を行った.胚盤胞を用いてゲノムDNAの解析を行った結果,exon 11を挟む各イントロン領域にloxP配列の挿入を確認した.引き続き,受精卵へのマイクロインジェクションを行い,GDE5 floxマウス(F0マウス)を樹立した.さらに,GDE5 floxマウスの戻し交配を行い、F3マウスを用いて肝実質細胞でCreリコンビナーゼを発現するAlbumin Cre (B6.Cg-Tg(Alb-cre)21Mgn/J)マウスと交配を行うことで,Alb cre+/-, GDE5 flox/floxマウスを取得した.肝臓由来ゲノムDNAを用いた解析により,exon 11の欠失を伴うCreによる組換えを確認した. さらに,清酒酵母,および実験室酵母の交雑100株(一倍体)とGPC蓄積量に基づくQTL解析に着手した.交雑株のメタノール抽出物を調製し,各株のGPC,およびコリン含量の測定を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GDE5全身欠損マウスを樹立し,コリン代謝に関する解析を行った結果,GPC濃度の有意な蓄積,およびベタイン濃度の低下が認められ,試験管内の酵素反応のみならず,in vivoにおいてもGDE5がGPCからコリン生成に関与する酵素であることが明らかになった.さらに組織特異的GDE5欠損マウスの作製を目的として,CRISPR/Cas9システムを利用したゲノム編集法を用いて標的となるexon 11をCreリコンビナーゼ標的配列loxPで挟んだ遺伝子座を持つマウス(floxマウス)の作出に成功した.肝実質細胞でCreリコンビナーゼを発現するAlbumin Cre マウスや骨格筋でCreリコンビナーゼを発現する human α-skeletal actin (HSA)Cre マウスと交配を行うことで,組織特異的GDE5欠損マウスの作出に関しても順調に推移している. さらに,清酒酵母,および実験室酵母において,GPC蓄積量の大きな差異が認められ,交雑100株(一倍体)に関しても,GPC蓄積量に関する解析は順調に推移している.
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今後の研究の推進方策 |
GDE5全身欠損マウスを用いたコリン代謝,脂肪肝発症に関する解析については,F3マウス以降を用いて継続する.choline欠乏食(脂肪肝モデル)群,酒石酸cholineを0.2%になるように添加した対照群を2ヶ月程度までの長期飼育する.継時的に採血を行った後,血漿中GPCなどのコリン代謝物の測定を行うとともに,ALTなど肝障害マーカー,血中脂質,血中コレステロール値などの生化学分析を行うことで肝疾患の発症に関する検討を行う. 肝臓,および骨格筋特異的GDE5欠損マウスの作製,および利用に関しては,平成29年度に引き続き,肝実質細胞でCreリコンビナーゼを発現するAlbumin Cre マウスや骨格筋でCreリコンビナーゼを発現する human α-skeletal actin (HSA)Cre マウスと交配を行うことで,組織特異的GDE5欠損マウスの樹立を行う.同腹の対照マウス(cre-/-, GDE5 flox/flox)を用いて,肝臓におけるGDE5の発現をexon 11を含むmRNA解析,およびタンパク質解析により確認する.特に,肝臓特異的GDE5欠損マウスを用いて,正常食を摂取させた際の肝臓内コリン,GPC濃度,およびリン脂質濃度の解析を行う.さらに,choline欠乏食を6週間自由摂取させ,肝障害マーカー,血中脂質,血中コレステロール値についての生化学分析を行うとともに,肝臓からの脂質,および水溶性画分の抽出を行い,リン脂質やコリン代謝物の分析を行うことで,肝組織でのコリン代謝に与える影響を解明する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の使用が生じた理由として,肝臓特異的,および骨格筋特異的GDE5欠損マウスの作製に関して,平成29年度において肝実質細胞でCreリコンビナーゼを発現するAlbumin Creマウスや骨格筋でCreリコンビナーゼを発現する human α-skeletal actin (HSA)Creマウスの譲渡を受けたためである.本年度では引き続き,同Creマウスを用いてGDE5 floxマウスと交配を行うことで,組織特異的GDE5欠損マウスの樹立,特に,同腹の対照マウス(cre-/-, GDE5 flox/flox)を用いて,肝臓におけるGDE5の発現の解析に使用するとともに,新たなCreマウスとして腸管で発現するvillin Cre マウスの入手などに使用する予定である.
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