研究課題/領域番号 |
17K07759
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
湯浅 恵造 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (70363132)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 低分子抗体 / タンパク質分泌生産 |
研究実績の概要 |
Serratia marcescensは2つのI型タンパク質分泌機構(T1SS)[Lip system、Has system]を有し、選択的なタンパク質分泌を行っている。これまでにLip systemを導入した大腸菌株が一本鎖抗体(scFv)を微量ではあるが、分泌することを見出しており、本研究ではその分泌機構を解明するとともに、高効率な抗体分泌生産系を構築することを目的とした。まず、Lip system(LipB-LipC-LipD)のどのコンポーネントが関わるのか検討したところ、LipC単独の導入によって抗原結合能を有するscFvが分泌されることが判明した。一方、Has system(HasD-HasE-HasF)のHasEによっては分泌しなかった。Has systemにおいてHasFは大腸菌外膜タンパク質TolCによって代替されることから、LipCは何らかの大腸菌タンパク質と共役してscFvの分泌を行っていることが考えられた。そこで、pull-down解析と質量分析法を組み合わせて、LipCと相互作用するタンパク質を探索した結果、ATP合成酵素サブユニットαが同定されたが、大腸菌ABC proteinあるいはOMPは同定できなかった。また、TolC欠損株においてもLipCによる分泌は認められ、TolCが代替しているわけではないことが示された。加えて、scFvのC末端のVTV配列をATAに置換したscFv変異体が分泌されなかったことから、この配列が分泌に関わることが示された。さらに、他の低分子抗体であるラクダ科動物由来Nanobodyの分泌生産についても検討した。NanobodyにもC末端VTV配列が存在し、LipCによって分泌された。最終的に、Strep-Tactin Sepharoseを用いて、培養液1Lあたりmgオーダーの精製Nanobodyを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. marcescens T1SSによる低分子抗体分泌に関わるT1SSのコンポーネントや部位を明らかにすることができ、また、菌株、発現ベクター、培養条件、精製条件などについて検討を行うことにより、最終的に培養液1 Lあたりmgオーダーの抗原結合能を有した低分子抗体(Nanobody)の分泌生産ができたことから(SDS-PAGE(CBB染色)において単一バンドのレベルまで精製)、おおむね順調に進展していると考える。本年度成果を基に、さらに分泌生産量を向上させることが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
S. marcescens Lip system以外のT1SSによって低分子抗体が分泌されるか否かを検討し、より高効率な分泌生産系の探索を行う。Pseudomonas fluorescensやP. aeruginosaにもLip systemが存在するため、まずはこれらについて検討する。また、分泌に関わったC末端VTV配列はVH domainに由来する配列であるが、相補性決定領域とは異なる領域であり、抗原結合能に影響を与えないため、この周辺配列を含め性質の異なる各種アミノ酸に置換し、その影響を検討し、必要最小限かつ分泌効率の高いC末端付加配列を探索する。これらによって得られた研究成果を基に、より高効率な分泌システムの構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
オープンアクセスジャーナルに投稿する予定であったが、間に合わず、本年度使用額の一部を次年度へ繰り越すことになった。繰越し分を次年度、オープンアクセスジャーナルの掲載料に利用する予定である。また、3月末に行われた学会の参加費および旅費について、繰越し分を利用する。
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