Serratia marcescensは、2つのI型タンパク質分泌機構(Lipシステム、Hasシステム)を有し、選択的なタンパク質分泌を行っている。昨年度までにLipシステム(LipB/C/D)のmembrane fusion protein (MFP)であるLipCを導入した大腸菌がラクダ科動物VHH抗体(Nanobody、Nb)を分泌すること、NbのN末端に付加したStrepを利用したアフィニティー精製により培養液1L当たりmgオーダーの分泌生産ができることを明らかにした。本年度は、分泌効率をより高めるために、分泌機構の解明を試みた。NbのC末端にはFLAG(DYKDDDDK)を付加させているため、この8アミノ酸を欠失したNbの分泌を調べた結果、分泌は認められなかった。FLAGのアミノ酸配列が分泌に関わると考え、FLAGをHA(YPYDVPDYA)とMyc(EQKLISEEDL)に置換して分泌を調べたが、ともに分泌が認められた。一方、FLAGを2個繋げたNbは分泌されなかった。C末端より16~18番目にあるVTV配列の変異体が分泌しなかったことと考え合わせると、このVTV配列のC末端からの位置が重要であることが推測された。また、LipCと協調的に働く大腸菌タンパク質の同定を試みた。Hasシステム(HasD/E/F)では、HasFの代替として大腸菌外膜タンパクTolCが機能することから、TolCの関連性を調べた。TolC欠損株では、LipC依存的なNbの分泌が認められず、TolCがNbの分泌に関わっていることが推測された。さらに、より高効率な分泌生産システム構築のために、LipCにアミノ酸相同性が高いKlebsiella aerogenes MFPによってNbが分泌されるか検討したが、分泌は認められなかった。
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