本研究では生体内糖鎖を特異的に認識することによって様々な生理機能に重要な役割を果たしている糖結合タンパク質レクチンの構造と機能の解明を行った。これまでに,海産無脊椎動物の一種である棘皮動物に属するラッパウニ(Toxopneustes pileolus)の叉棘に含まれるSUL-Iやこれまでにあまり研究が進んでいない二枚貝類の一種ウチムラサキ(Saxidomus purpuratus)由来レクチンであるSPL-1とSPL-2のcDNAクローニング及び大腸菌を用いた組換えタンパク質の発現とその構造機能の解明を行った。その結果,これらのレクチンの特異な糖結合特性ならびに新奇な立体構造の決定に成功し,海産無脊椎動物のもつこれまでに知られていないレクチンの構造と機能を明らかにした。また,これらのレクチンは,細胞に対する増殖促進やある種の細胞に対する細胞毒性などの生理活性を示し,毒素タンパク質との関連性も示唆された。より広くレクチン及びその関連タンパク質を明らかにするために,ラッパウニ,ウチムラサキ,イシワケイソギンチャク(Anthopleura japonica)のトータルRNAを用いた次世代シークエンサーによる網羅的配列解析を行った。その結果,これらのレクチンを含む数種類のレクチン関連遺伝子の配列決定ならびに,それらの組換え体の発現に成功した。なかでも,ラッパウニの新奇なレクチンであるSUL-IIIは,これまでに見出されていない配列を有しており,新しいファミリーに属することが明らかになった。また,イシワケイソギンチャクからは新奇なCa2+依存性レクチンを見出し,AJLecと名付けた。AJLecはC型レクチンとは異なる様式でガラクトースやラクトースを認識するレクチンであり,N-アセチルガラクトサミンには親和性を示さないなどの特異な糖認識能を示すことがわかった。
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