研究課題/領域番号 |
17K07768
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 公咲 北海道大学, 農学研究院, 講師 (30374622)
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研究分担者 |
松浦 英幸 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20344492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 標的タンパク質 / 生理活性物質 / nano LC-MS/MS |
研究実績の概要 |
モデル実験により、生理活性物質にアジド基を有するプローブ(アジドプローブ)と、アミノ基、アルキンおよびビオチンを有するリンカーを用いて標的タンパクを同定する方法が有効であることが示された。そこで本手法を用いて、植物生長促進活性を有するアザヒポキサンチン(AHX)の結合タンパク質の同定を試みた。 モデル植物であるイネのタンパク質抽出液にアジド基を導入したAHX(N3-AHX)を添加し、タンパク質とN3-AHXを十分に相互作用させた。タンパク質とN3-AHXの複合体は、リンカーを介してストレプトアビジン固定化レジンに結合させた。非特異的にレジンに結合するタンパク質を十分に洗浄した後に、N3-AHXと結合するタンパク質を選択的に溶出させた画分(Fr.1)が得られた。イネのタンパク質抽出液に過剰のAHXを添加し、Fr.1を得た方法と同様な方法で得られた画分をFr.2とした。イネのタンパク質抽出液を何も結合させていないストレプトアビジン固定化レジンに供した後、本レジンに非特異的に結合するタンパク質が溶出がされた画分をFr.3とした。この3つの画分をそれぞれnano-LC-MS/MSに供し、各画分に含まれるタンパク質を検出した。Fr.1にのみ含まれ、Fr.2およびFr.3には含まれないタンパク質が14個あり、これらのタンパク質がAHXに結合する候補タンパク質と推定された。その中で、Os07t0112800(Similar to Eukaryotic translation initiation factor 5A-4 (eIF-5A-4))が、ウェスタンブロッッティングによりAHXとの結合が確認された。本タンパク質はAHX結合タンパク質として有望であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初は、AHX結合タンパク質を含む画分をSDS-PAGEに供し、CBB染色等で検出されたタンパク質のバンドをゲルから切り出し、nano LC-MS/MS分析に供することでAHX結合タンパク質を同定する予定であった。しかし、切り出したゲルに含まれるタンパク質の量が微量のためにAHX結合タンパク質の同定には至らなかった。そこで、アジドプローブ(N3-AHX)に結合したタンパク質の画分(Fr.1)、過剰のAHX添加により競争阻害されためにアジドプローブ(N3-AHX)と結合できなかったタンパク質の画分(Fr.2)、ストレプトアビジン固定化レジンに非特異的に結合するタンパク質の画分(Fr.3)をnano LC-MS/MS分析に供した。本分析で得られた結果を比較し、Fr.1にのみ検出された14種のタンパク質がAHXに結合するタンパク質と推定された。これらのタンパク質に共通性は無かった。これまでOs07t0112800(similar to eukaryotic translation initiation factor 5A-4 (eIF-5A-4)、M.W. 17.755 kDa)およびOs04t0269600(Similar to cDNA clone: J023110G01、full insert sequence、M.W. 32.931 kDa)の大腸菌による組換えタンパク質の発現に成功した。アジドプローブ(N3-AHX)を介したウェスタンブロッティングの結果、Os07t0112800由来のシグナルが検出された。さらに、過剰のAHX添加による競争阻害実験においてOs07t0112800由来のシグナルが大きく減少したため、本タンパク質はAHX結合タンパク質として有望であることが示された。その一方で、Os04t0269600はAHXとの結合活性が認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
AHXへの結合が確認されたタンパク質(Os07t0112800)については、BiacoreまたはiTCを用いてAHXとの分子間相互作用を詳細に解析し、本タンパク質がAHXの結合タンパク質であることを明らかにする。さらに、Os07t0112800の遺伝子が欠損したイネ変異株のAHXに対する非応答性または過剰発現したイネ変異株のAHXに対する過剰な応答性を確認することでOs07t0112800がAHXのシグナル伝達に関与していることを明らかにする。 本実験では、14種のAHXに結合する候補タンパク質が見出された。しかし、それらの中で組換えタンパク質として発現できた2種のタンパク質を用いて、AHXとの結合について評価した。残りの12種のタンパク質についても順次組換えタンパク質の発現を行い、Os07t0112800と同様にAHXとの結合について詳細に検討する。さらに、それらのタンパク質をコードする遺伝子のイネ変異株の生育に対して、AHXがどの様な影響を与えるのか観察することで、それらのタンパク質がAHXの受容体であるのか否かを明らかにする。 また、12-オキソファイトジエン酸(OPDA)については、その分子内にあるカルボン酸をアジドエタノールアミン(すでに合成済み)と縮合させることでアジド基を導入したアジドプローブとする。このアジド基を介して標的タンパク質、アジドプローブおよびリンカーの3者複合体を形成させ、nano LC-MS/MS分析によりOPDAに結合する候補タンパク質を推定する。OPDAとこれらのタンパク質の結合をウェスタンブロッティングにより確認した後、上述したOs07t0112800の結合活性を確認する方法に従って、OPDAの結合タンパク質および受容体を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会に講義の都合で参加できなくなったために旅費として予定した金額を使用できなかった。また、論文投稿が遅れており、その費用として予定していた金額が未使用であった。このため、次年度使用額が生じてしまった。 本研究成果をまとめた論文を平成31年4月中に投稿を予定している。また、平成31年度は、平成30年度に参加できなかった学会にも参加を予定している。これらの費用として次年度使用額を使用するつもりである。
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