研究課題
本研究は、「イネ(日本晴)が生産するベーター-アミノ酸の生理的・生態学的機構の解明」を目的として、平成29年から4年間で計画されている。本研究の基盤は、イネ (日本晴) はtyrosine aminomutase 1 (TAM1) により L-tyrosine から (R)-β-tyrosine を生合成すること、その(R)-β-tyrosine はシロイヌナズナを含めた数種の双子葉植物の根の伸長を阻害する一方、イネやトウモロコシなどの単子葉植物には活性を示さないことを世界で最初に示した我々の研究にあり、(R)-β-tyrosineが示す双子葉に特異的な根伸長阻害活性の機構解明を目指している。平成30年度は、平成29年度の確立した生物試験法をもとにして、β-tyrosine類縁体の構造とその根の伸長阻害活性を詳細に調べた。(R)-β-tyrosineと(S)-β-tyrosineがシロイヌナズナ根の伸長を阻害する一方、(R)- および(S)-β-phenylalanine は活性を示さないこと、β-tyrosineからアミノ基を除いた構造を持つフロレト酸にも根伸長の阻害活性は認められないことを明らかにした。さらに、m-(R)-β-tyrosineやo-(R)-β-tyrosineにも根の伸長阻害活性は認められなかった。したがって、β-tyrosineの根伸長阻害活性の発現には、β-位のアミノ基とベンゼン環のp位の水酸基の共存が必要と結論した。また、処理時にβ-tyrosineの16倍量の(S)-α-tyrosine(50 microM)を加えると根の伸長阻害活性が緩和されることも新たに見出した。興味深ことに、この緩和効果は(S)-α-phenylalanineでは観察されなかった。以上の結果はβ-tyrosineの作用機作解明につながる結果である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度、30年度に行った詳細な(S)-β-tyrosine類縁体の構造と活性の比較から、(R)-β-tyrosineが示す双子葉植物に対する根の伸長阻害活性にはβ-位のアミノ基とベンゼン環のp位の水酸基の共存が必要と結論できた。処理時にβ-tyrosineの16倍量の(S)-α-tyrosine(50 microM)を加えると根の伸長阻害活性が緩和されることも新たに見出した。興味深ことに、この緩和効果は(S)-α-phenylalanineでは観察されなかった。以上の結果は、β-tyrosineの作用機作解明につながる結果である。また、イネ(日本晴)の根から滲出する(S)-β-tyrosine量を圃場で測定したところ、その滲出量はごく僅かであり、(S)-β-tyrosineがアレロパシー活性を示すことは無いであろうと結論した。これは、(S)-β-tyrosineの圃場における効果を考えるにあたって、重要なものであった。今後は、双子葉の根伸長を特異的に阻害する(S)-β-tyrosineの特異性の機構解明に重点を置き、研究を進める。
平成29年度、30年度の成果から、(R)-β-tyrosineが双子葉植物に特異的に根の伸長抑制を示す理由として、双子葉植物の一次細胞壁のtyrosine dimerに注目した。植物の細胞壁は一次細胞壁と二次細胞壁に分類され、前者は植物の生育を制御しており、単子葉と双子葉植物でその構造が異なる。単子葉植物では糖鎖で構成されるのに対し、双子葉植物では糖鎖と塩基性タンパク質(エクステンシン)で構成される。このエクステンシンの架橋にtyrosine dimerが関与している。今後は、(R)-β-tyrosine処理がtyrosine dimerの架橋に及ぼす影響に注目して、根の伸長抑制機構の解明に臨む。
平成30年度では順調に研究が推移したので、想定していた薬品類の使用が少なかった。平成31年度は配分額が減る予定なので、次年度と併せて有意義に使用する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
eLife
巻: 8 ページ: e43045
:https://doi.org/10.7554/eLife.43045
Biosci., Biotechnol. Biochem.
巻: 82 ページ: 1309-1315
: 10.1080/09168451.2018.1465810.
http://www.chemeco.kais.kyoto-u.ac.jp/