これまでに当研究室において、ヒスチジンが連続したペプチドであるポリヒスチジンが高い細胞膜透過を示すことが発見された。そこで本研究では、自然界に存在するヒスチジンを豊富に含んだタンパク質も同様に細胞膜を透過するのではないかという予想のもと、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)由来のヒスチジンリッチタンパク質であるHistidine Rich Protein 2(PfHRP2)に着目した。PfHRP2は、熱帯熱マラリア原虫が赤血球に感染した際に、ヒト血中に多量に放出されるタンパク質である。 昨年度までに、PfHRP2は種々のヒト細胞に対して細胞膜透過とそれに続く細胞毒性を示すことを確認した。すなわち、PfHRP2は熱帯熱マラリアの重篤化に関与する新たな毒性因子であることが明らかになった。最終年度では、PfHRP2の細胞膜透過と細胞毒性メカニズムの解明を試みた。その結果、PfHRP2の細胞膜透過と細胞毒性はカルシウムイオンとマグネシウムイオン依存的である可能性が明らかになった。さらに、金属キレート剤であるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)の存在下では、PfHRP2の細胞毒性が阻害されることも明らかになった。EDTAは金属関連疾患の治療薬としてすでに使用されていることから、同様にPfHRP2の毒性抑制のための治療薬としても使用できる可能性が示唆された。 本研究では、ヒスチジン連続配列という観点から、「熱帯熱マラリアの新たな毒性因子PfHRP2の発見」と「PfHRP2の毒性メカニズムとその抑制法」を見出すに至った。本研究成果は、熱帯熱マラリアの新たな治療法開発に貢献できると期待される。
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