研究課題
平成29年度はこれまでに連携研究者によって調製・供給されたおよそ2,000検体の微生物培養液サンプルを用いてスクリーニングを行った。すなわち、薬剤耐性機構がない黄色ブドウ球菌RN4220にpND50(E. coli-S. aureus shuttle cloning vector)を用いてプロモーター領域を含むaac(6′)-Ie/aph(2″)-Iaを形質転換し、二機能酵素発現株を樹立した形質転換体およびRN4220にpND50ベクターのみを形質転換した形質転換体を検定菌として、アルベカシン耐性克服活性を有する微生物培養液を選抜した。さらにin houseの天然物化合物ライブラリーからのスクリーニングも実施した。スクリーニングは以下の一次から三次までを行った。一次スクリーニングとしてアルベカシン含有培地上で阻止円が確認された検体、二次スクリーニングとしてアルベカシン含有、非含有培地で選択性が確認できた検体、そして三次スクリーニングとして二機能酵素阻害活性が確認できた検体。その結果、強いアルベカシン耐性克服活性を示し再現性のあった5検体の培養液を選抜した。この5検体について再培養により活性物質生産が再現されることを確認した結果、海洋土壌由来糸状菌のFKJ-0069、FKJ-0121ならびに海洋土壌由来放線菌のKMA-0091、KMA-0092、KMA-0105のいずれの培養液も、アルベカシン耐性克服活性が再現された。糸状菌FKJ-0069およびFKJ-0121は同種の可能性があり、かつ予備的な精製実験において活性画分の挙動が一致したことから、活性物質は同一物質である可能性が高いことが示唆された。そのため糸状菌FKJ-0069の方を大量培養し、その培養物の活性物質を精製・単離した結果、シトリニンであると同定することができた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度はスクリーニングを行い、アルベカシン耐性克服活性の強い培養液からの活性物質を精製していく計画を実施した。さらに、in houseの天然物化合物ライブラリーからのスクリーニングも実施した。これまでにおよそ2,000検体の微生物培養液サンプルを用いて、スクリーニングを行い、アルベカシン耐性克服活性の強い5検体の培養液を選抜できた。海洋土壌由来糸状菌のFKJ-0069、FKJ-0121の培養検体ならびに海洋土壌由来放線菌のKMA-0091、KMA-0092、KMA-0105の培養検体を精製対象候補検体として選抜した。糸状菌FKJ-0069培養物から単離した活性物質はシトリニンと同定した。本化合物はすでに糸状菌の生産物として報告されているミトコンドリア呼吸鎖の複合体IIIを妨げることによって細胞呼吸を阻害する機能を有している。また、平成30~31年度にはin vitroでアルベカシンを修飾して不活性化する酵素である二機能酵素に対する阻害活性試験を実施する予定である。阻害活性の測定には、二機能酵素で修飾され薄層クロマトグラフィーでその修飾能を判別できるアミノグリコシド抗生物質カナマイシンを用いる。二機能酵素阻害活性を測定するために、二機能酵素遺伝子のクローニングを行い、今年度はタンパク質発現ベクターの構築も達成した。
薬剤耐性機構がない黄色ブドウ球菌RN4220にpND50(E. coli-S. aureus shuttle cloning vector)を用いてプロモーター領域を含むaac(6′)-Ie/aph(2″)-Iaを形質転換し、二機能酵素発現株を樹立した形質転換体およびRN4220にpND50ベクターのみを形質転換した形質転換体を検定菌として、連携研究者によって調製・供給される微生物培養液サンプルを用いて、アルベカシン耐性克服活性を有する微生物培養液の選抜を平成29年度に引き続いて行う。さらに、選抜された微生物培養液についてアルベカシン耐性克服活性物質を単離・構造解析後に、in vitroでアルベカシンを修飾して不活性化する酵素である二機能酵素阻害活性試験を実施し、二機能酵素阻害活性を検証する。平成29年度に単離・構造決定された活性物質については、その活性物質の誘導体合成を計画し、強力な二機能酵素阻害活性を有する活性物質の取得も試みる。活性物質選抜後には、各種検定菌によるアルベカシン耐性克服活性、in vitro二機能酵素阻害活性の詳細な検討およびアミノグリコシド併用時における各種二機能酵素生産菌に対する抗菌スペクトルを測定する。これらの試験によって優れた活性を示した活性物質については、連携研究者らによるアミノグリコシドを併用したマウス感染モデル系での治療効果を検討する。
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