研究課題/領域番号 |
17K07779
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
小林 正治 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (30374903)
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研究分担者 |
長井 薫 甲子園大学, 栄養学部, 教授 (20340953)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヘリセノン / アセトゲニン / 全合成 / 立体特異的環縮小反応 / 構造活性相関 / 脂肪酸エステル / 小胞体ストレス / 神経保護効果 |
研究実績の概要 |
本研究では,天然食品由来の生物活性物質を標的として,全合成ならびに神経変性疾患予防を指向した生物活性評価を行う.本年度は主に,1)ヘリセノン類の全合成と小胞体ストレスを起因とする神経細胞死に対する保護効果,2)紅藻由来のアセトゲニン天然物であるローレニディフィシンおよびローレンマリアレンの全合成を検討した.1)の全合成法に関して,モンモリロナイト鉱とモレキュラーシーブを組み合わせたゲラニル側鎖の1,3-転位反応を見出し, 5’-位にカルボニル基を持つヘリセノンCの初の全合成に成功した.今回見出した合成ルートは従来法よりも短段階で実施しやすいものであり,特に脂肪酸エステルを有する化合物群の合成に有効である.全合成と平行して,5’-位にカルボニル基を持たないヘリセン型天然物およびその誘導体を複数合成し,小胞体ストレス誘導細胞死に対する神経保護効果を検証した結果,脂肪酸エステルの重要性が明らかになった.特に,脂肪酸エステルの結合位置が異なる誘導体は天然物よりも強い保護活性を示し,活性の増強に向けた新たな分子デザインが可能になった.また,天然物と位置異性体では小胞体ストレス誘引物質に対する保護効果の傾向が少し異なり,細胞保護機構が同一ではない可能性が得られた.一方,2)に関しては,懸案となっていた環縮小反応の立体制御に関して,1,3-シス体を選択的に得る方法を確立した.これにより,立体化学が未知のイソローレニディフィシンやブロモローレニディフィンの推定構造の合成に向けた道が開かれた.また,ローレンマリアレンの合成においては,ブテニル側鎖を直接的に導入する方法や5員環内に二重結合を導入する方法を見出すことができ,全合成に道筋をつけることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘリセノン類の合成に関しては,兼ねてからの懸案事項であった,ケトンを含むゲラニル側鎖の短段階導入を1,3-転位反応によって達成し,特に脂肪酸エステルを含むヘリセノン類の実用合成につながる成果を得た.従来法よりも保護-脱保護等の官能基変換工程が少なく,不安定側鎖の直接的アルキル化や1,3-転位反応などの合成化学的に有益な知見も得た.合成化合物の細胞保護活性に関しては,脂肪酸エステルの結合位置の異なる異性体が天然物よりも強い保護活性を持つことを見出し,さらに,天然物と位置異性体で異なる細胞保護機構が生じる可能性を示した.これらの結果は当初の計画に優るものであり,新規な神経細胞保護物質の分子設計に向けた研究指針となるものである.また,ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン骨格をもつアセトゲニン類の合成に関しては,立体特異的環縮小反応を改良することで1,3-トランス型と1,3-シス型のいずれの立体化学も同一出発物質から合成できることを示した.この方法論により,ビスTHF構造を持つアセトゲニン類の全て立体化学様式の合成手段が備わったことになる.また,モデル実験ではあるが,ローレンマリアレンの直接的な側鎖導入法も見出し,次年度につながる研究指針を得ることができた.以上の成果は,当初の計画と同等以上のものである.
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今後の研究の推進方策 |
ヘリセノン類に関しては,まず,過去に合成されていないヘリセノンC-Hならびに3-ヒドロキシヘリセノンFの合成を実施する.前年度に見出したゲラニル基の1,3-転位反応は収率改善の余地があり,反応条件の最適化を行い,収率の向上を目指す.ヘリセノンC から3-ヒドロキシヘリセノンFの変換には酸化剤や酸のチューニングが必要であり,副生成物の生成等も含めて詳細に条件検討し,推定される生合成経路の化学的な実証にも取り組む.合成したヘリセノン類(特に5’位にケトン基を持つヘリセノン類)を神経細胞保護活性試験に付し,前年度のデータも踏まえてより詳細な構造活性相関を得る.特に3-ヒドロキシヘリセノンFは細胞保護に関する基準物質であり,保護活性の再現性を確認するとともに,構造活性相関から新規な分子設計につなげる.一方,アセトゲニン類に関しては,立体化学が未知のイソローレニディフィシンとブロモローレニディフィシンの全合成を完了させるとともに,天然物の立体化学を解明する.また,ローレンマリアレンに関しては,モデル実験で成功した側鎖導入法を本基質に適用し,全合成への検討を進める.全合成を完了した場合,合成化合物をヒストン脱アセチル化酵素(Hdac)活性阻害試験に付し,Hdac阻害剤として機能するかどうかを調査する.
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