研究課題/領域番号 |
17K07780
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
浴野 圭輔 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (30310030)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Bacillus thuringiensis / parasporin |
研究実績の概要 |
Bacillus thuringiensis(BT)は芽胞形成桿菌であり、胞子形成時に菌体内に顕微鏡で観察できるタンパク質のかたまり(結晶性タンパク質)を形成する。この結晶性タンパク質にはさまざまな殺虫タンパク質が含まれており、多くの基礎研究が行われている。さらに、結晶性タンパク質中には培養ガン細胞に対して損傷活性を示すタンパク質が含まれていることが1999年に発見され、Parasporinとよばれている。これに対し、BT A297株が生産する結晶性タンパク質は上記の生物活性を示さない一方で、その培養上清に細胞損傷活性があることを見出した。本研究においては、その諸性質を明らかにする。 昨年部分精製標品から予想される目的タンパク質について、ペプチドマスフィンガープリンティングよってその構造遺伝子がA297株のゲノム配列上の遺伝子A297-01-00947であることを特定した。大腸菌による組み換えタンパク質の発現を行ったが、不溶性タンパク質として発現し、活性タンパク質として取得できなかった。そこで、枯草菌を宿主として発現系の構築を行った。その結果、目的タンパク質が菌体外に分泌発現されることを確認したが、ヒト白血病細胞MOLT-4に対する損傷活性を確認することはできなかった。 一方、本生物活性タンパク質の細胞損傷機構について蛍光プローブによる解析を行った。まず、MOLT-4細胞にA297培養上清を添加し、1時間培養を行った。次に、生細胞蛍光染色色素Fluorescein diacetate(FDA)および、損傷した膜を透過し、核酸を染色するPropidium iodide (PI)を用いて細胞の二重染色を行った。蛍光顕微鏡観察の結果、死細胞においてPIの染色が確認されたことから、本タンパク質による細胞損傷機構は細胞膜にダメージを与えることによるものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度同定した目的タンパク質遺伝子の組み換えタンパク質の取得において、大腸菌からBacillus subtilis 1012wtへ宿主を変更することで発現タンパク質を得ることができた。しかしながら、組換えタンパク質を調製し、Molt-4細胞に対して損傷活性を確認した結果、活性を確認することができなかった。そこで、再度目的タンパク質の取得のため精製を行っているが、活性が不安定であり難航している。一方で、蛍光プローブを用いたサンプル処理細胞の顕微鏡観察により、A297株の細胞損傷タンパク質は細胞膜に損傷を与え、死に至らしめていることが推察された。目的タンパク質の特定はできていないものの、培養細胞に対する細胞損傷機構については明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは目的タンパク質取得を目的に継続して精製を行う。これまでにA297株は対数増殖期の培養上清には細胞損傷活性を確認できるが、定常期以降の培養上清には活性を示さないことがわかっている。昨年度次世代シーケンス解析により本菌株のゲノム配列情報を取得していることから、遺伝子の発現変動を解析することで培養初期にのみ発現している細胞外分泌タンパク質を調べることで、目的タンパク質遺伝子を解析できると考えている。タンパク質精製と並行して遺伝子発現情報から目的因子の特定を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した試薬が予定より安く購入できたため。次年度消耗品費として使用する。
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